第61期 #6

危険地帯

「おい、新入り、ここからは危険地帯だ。注意してついて来い」
新入りはゴクリとツバを飲み、「ハイッ教官!」と答えた。薄暗く埃っぽい地下通路から出ると明るくだだっ広い空間が広がった。光の眩しさに思わず立ち止まる新入り。
「バカ野郎! 危険地帯で立ち止まるな! 奴らに見つかれば格好の餌食だぞ!」
教官が怒鳴る。新入りはハッとして後を追う。
「歩きながら聞け、奴らの攻撃方法だ。空中からの執拗な打撃、神経ガスの噴射、どちらもまともに受けたら確実に死ぬ」
 新入りと教官は物陰に身を潜めた。
「新入り、あの怪しげな家が見えるか。さて、お前ならどうする?」
新入りがはきはきと答える。
「迷わず踏み込みます!」
ニヤリと笑う教官。
「アウト。あれは奴らが仕掛けたワナだ。入ったら家ごと廃棄されちまう……それからそこにある団子は食べるなよ。毒入りのワナだ……」
新入りは掴んだ団子を慌てて投げ捨てた。

「見ろ! 奴だ! あれが我らが宿敵、人間だ」
「バカでかいですね! ん? 床に何か缶詰をセットしてま……」
『逃げろっ!』教官の叫びと“プシュー”缶詰の毒ガス噴霧はほぼ同時だった。たちまちのうちに毒ガスに包まれ、もだえる教官と新人り。薄れゆく意識の中で新人りは悔やんだ。
【どうせなら団子を食って死にたかった……】

 毒ガスが晴れた。部屋の隅の暗がりに2つの死骸が転がっている。部屋の中央に置かれた空の缶詰にはこう書かれていた。
〈ゴキブリに ゴキアース○ッド 霧タイプ〉



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