第61期 #10

白い壁

 夜中の12時。白い壁に手を触れると異次元の世界。そういえば、そんな噂が小学生のときに流行ったよなーと、ふとユウリは思い出した。
 鏡の話や階段の数・・・…怖い話は色々あったけれど、ユウリは白い壁の話が一番リアルだった。
 理由は簡単。自分の部屋の壁も白いからだ。
 この白い壁に真夜中、0時ぴったりに両手をつけると、どこにいくんだろう。そう考えると怖くてたまらなかった。
 根も葉もない噂だってことは、誰に言われなくたってわかることだ。
(でも、信じてみたくなることだってあるんだよねー)
 時計を見ながらユウリは思う。
 宿題の山、受験。そんなものが近づいてくると本当に逃げ出したくなる。
 誰でも入れるわよと母さんは言うけれど、受験は未だにあるし、その先大学、就職――想像つかないけれど――受験や試験があることはわかる。
 とりあえずは、高校受験なわけだけれど……。
 普段のテストでだって緊張する。独特の雰囲気、何回テストを受けてもユウリはあの雰囲気には慣れない。あ、あのページに書いてあったということは思い出すけれど、そこから答えを書くのが大変だ。
 0時まであと少し。
 塾のテキストを閉じる。白い壁の話を思い出してしまい、他のことが頭に入らなくなったのだ。
 もし、両手で白い壁を触ったら……。そしてどこか異次元の世界へ紛れ込んだとしたら、いったいどこに行くのだろう。
 家族はもう寝てしまったのか、時々車の走る音が聞こえるだけで、しんとしている。
 ドキドキしてくるのをユウリは感じた。
 ありえないと思う。でも、もしかして……。そしてその先は? 答えのでないままイスから立ちあがり、ユウリは白い壁と向き合った。
 壁に変化はない。
 時計を見て、カウントする。……4,3,2,1。
 0時。
 同時にユウリは両手を白い壁にくっつけた。


 静寂。

 ユウリはそろそろと目をあけた。
 ……変わっていない。当たり前といえば当たり前で、どこか残念に思いながらもホッとしていた。
(今日はもう寝ようかな)
 まだ塾の宿題は残っているけれど。
 ベッドに入り、ああ、それでも私は白い壁の話を信じているんだなあと思った。家の壁は完璧な白い壁ではない。完璧な白い壁を見つけたら、また試すかもしれない。
 漠然とではあるがユウリは眠りに落ちる直前、そう思ったのだ。



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