第60期 #27

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 S・E・ザビエルの布教活動。六日目の朝に半島に漂着したザビエルは三人組の女に救われた。女たちが一句、

  深呼吸 箪笥の中の 蛙の子

 瞑想する御玉杓子。我思う故に我在り。迷走する名僧ザビエルは女たちを使って洪水を起こした。どんぶらこと川下り中の箱舟に一家族と動物たちがひしめいている。一家が一句、

  揺り籠や 漕ぎ手不在の 日本海

 断崖絶壁。コートの襟を立てながら歩き去る男。人生の荒波を思わせる揺れ方の揺り籠。ザビエルは故郷に残してきた妻を思う。息子は十七人の求婚者に言い寄られている母を残して彼を捜し回っている。びしょびしょになった女たちは姿を変え、大船と船員が陽炎のように立ち昇る。ザビエル、ラデツキー行進曲にのせて半島離脱。歌がきこえる。たぶん鳥の体をした美女。

  尻ふく手 右か左か きょう左

 右手にインド人、左手にカニが宿っていて、ジャンケンでどちらが拭くか決めているのだ、とヘビ。赤い実をくれた。ザビエルだけが猛烈に歌の方角へ行く事を望んだが船員たちが皆いつの間にかブタに変わっていたので大船は風の吹くまま進んでゆく。

  大船に のったつもりで 大後悔

 と口ずさみながら六杯のハーブティーをすするザビエルの横で六頭のテンシに六匹のブタがばっくりやられて大船が沈む。くぶくぶ。暗い森の中で、女たち臨終の一句、

  猫かぶり まいまいつぶり がぶりより

 北国ナンバーワンキャバ嬢とコートの襟を立てた男との不器用な接触。本心は相手を傷つけるだけだと言葉にするのが習慣になっているふたり。けれどふたりは知っていた、さよならを言うのは長いあいだお別れする事だと。冥界に迷い込んだザビエル、ギムレットをびちびちやっていると、

  ひろうた実 すっぱい あまい すっぱい あまい

 と聞こえ、それは三頭のウェルギリウスで、歌っていないふたつの頭が氷漬けのキリストとカエサルを甘噛みしてい、ザビエルが解放料にと赤い実を手渡すと途端にじゃうじゃう人が集まってきた。逃げ延びた先には海が横たわっていて向こう岸に見える自宅に妻のベアトリーチェがいた。思いの強さで海を割ると、ついてきていた人たちになぜだか感謝された。ひげもじゃに変わったザビエルが十七本の矢を求婚者たちの例の穴に通すと一件落着。ひさしぶりの同衾に妻は、

  ニコールが 大事といってた F○○○!

 といい、七日目の朝は仲良く寝坊した。



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