第60期 #18

公園の

角を曲がるとき、隅にあるブランコに誰かがいるのに気がついた。2つあるブランコの奥の方に座った制服姿の女の子が、下を見てじっとしている。

5歩くらい歩いている間に、向かいの家に住む幼なじみの彼女だと分かった。まだ夕食には少しだけ早いので、話でもしようと、彼は公園の入り口から中に入り、ブランコに向かった。

下を向いてじっとしていた彼女は、足音に気付き、顔を上げた。怪訝そうにしていた彼女だが、彼だと分かると、安心したような表情になり、あわてて両目をハンカチで拭った。

「よぉ、久しぶり」
彼の声にこくんとうなずいた彼女は、また下を向いてしまう。右手にはハンカチを握ったままだ。
「隣に座ってもいいか?」
再びうなずく彼女の隣のブランコに、彼は座る。
「うわぁ、ここのブランコってこんなに低かったっけ?」
それほど身長が高くない彼でも、両足を思いっきり曲げないと、うまく漕げないくらいだ。

「こんな時間に一人でメソメソしてると、怪しいやつに絡まれるぞ。俺でよければいつでも用心棒になってやるから、呼んでくれよな」
そう言う彼の言葉にまたうなずくと、一旦は収まった彼女の涙がまた溢れ出した。

肩をふるわせている彼女の隣で、彼は少しだけブランコを前後に揺らしながら真直ぐ前を見つめている。

そのまま5分ぐらいしていると、彼女の涙も収まって来たようだ。
ちらっと彼女の様子をうかがった彼は、立ち上がって彼女の前に来た。
「腹減ってきたから帰ろうぜ」
もうほとんど止まっている涙をもう一度ハンカチで拭い、彼女は口を開いた。
「何にも聞かないの?」
「俺はお前を泣かすようなくだらないやつのことなんか聞きたくないよ。さあ、帰るぞ」
そう言って差し出された右手に引かれ、彼女は立ち上がった。

2歩位先を行く彼に続いて、彼女も歩き出す。
「そういえば、幼稚園の頃あのブランコから落ちて泣いていたら、やっぱりあなたが来て、こうして家まで一緒に帰ってくれたよね?」
歩いたまま少し振り返って彼が言った。
「そんなことあったっけ?」
「うん、私覚えてる」

また前を向いて歩き出した彼に続きながら、彼女は何だか嬉しくなって微笑んだ。



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