第60期 #12
勇一へ。
二百四十二ページ。ちょうど主人公の少年が、一年前に死んだはずの母親と再会するシーンにそれはあった。
やっと見つけてくれたみたいね。あなたはこの本大好きだったから、必ずもう一度読み返すだろうって思っていたの。この手紙はいつ読まれているのかな? ねぇ、今隣に私はいる? いるよね? 昨日あなたが言ってくれた言葉は私の宝物になったんだから。
端正な顔立ちとは裏腹に、子供っぽく悪戯な性格の仁美らしいやり方だなと思った。
今朝だってそう、テーブルに仕掛けられた手紙に心臓が止まりそうなほど驚いてしまった。
驚いた僕を見て、笑う仁美の姿が浮かんだ。
まったくなあ、あきれと愛しさを織り交ぜたため息がこぼれた。
緩んだ口元に指を添え、手紙の続きに目を向けた。
ずっと君に恋している。
愛しているって言われるより何倍も嬉しかった。不器用なあなたからの精一杯の気持ち。私はずっと大切にしているからね。大切に心の中にしまっておくから。もし、喧嘩したりしちゃっても、この言葉をあなたが言ってくれたら、私はあなたの隣で笑って全部許してあげられると思います。
大切な言葉をありがとう。私もあなたにずっと恋しています。
2002年 十月八日 悪戯好きな仁美より。
「五年越しの悪戯かぁ、返事はどうすれば良いんだ仁美」
僕は、テーブルの上に仕掛けられた手紙に声をかけた。
ごめんなさい。二ヶ月前からあなたの他に好きな人がいます。決してあなたに魅力を感じなくなったというわけではありません。ただ、今のわたしにとってはその人の方が必要になってしまっています。勝手なわがまま許してください。あなたにしてもらったことは忘れません。今日までありがとうございました。
荷物は処分してくれて構いません。 仁美