第6期 #4
さよなら、エリコ。
私は降りしきる雪に包まれていた。
かじかんだ手に、傘が馬鹿に重く感じられた。
列車が動き出した。私はそれを暫く見守った。
警笛が鳴った。ポウと物悲しく、まっすぐに空に上っていった。
おばさんは手に取れそうなほど白い息を吐きながら私に言った。
「ごめんなさいね、ナッちゃん」
エリコはその胸に抱かれていた。
「この子、馬鹿よね。こんないいお友達を残して逝っちゃうなんてね」
ぽつりと言う。
「ありがとう、ナッちゃん」
おばさんの涙は乾いていた。トイレでお化粧を直したんだと思った。
私たちは廃校になる小学校にたった二人残された最後の生徒だった。
春からは私と一緒に、町の学校に移るはずだった。友達をたくさん作って――。
「すぐ戻るから」
おばさんは言った。エリコが納められた桐箱を、私は預かった。
「ちょっと待っててね。ごめんね」
ホームの外は一面の銀世界だ。私の心にもゆっくりと雪が積もる。思い出さえ見えなくなる。
私は泣いたよ、エリコ。みんなが泣いたよ。おばさんや、おじさんや――。
あんたよく言ってたよね、冗談みたいに。
「私が死んだらみんな泣いてくれるかな?」
お医者さんは親切だったけれど、あんまり頭が良くなかったね。
「長くは生きられないかも知れない。でも元気で長生きするかも知れない。分からない」
何で病気なんかあるんだろう。何で神様はエリコを選んだんだろう。分からない。
雪は後から後から降ってきた。何でこんなに雪が降るんだろう。分からない。
灰色の空はすべての色や感情を私たちから吸い上げて、呑み込んでいるみたいだった。
私は空を見上げた。
エリコはいま雲の上だ。そこには成層圏の真っ青な空とぴかぴかの太陽とがある。だよね?
倒れたのは五月だった。それから随分エリコは苦しんで、最後にやっと死んだ。
張り詰めていた私の気持ちはぱしゃっと水風船みたいに地面に落ちて割れた。
エリコは死んだのだ。
隣に越して来た時から、ずっと一緒に大きくなるんだと思っていた――でも。
ねえ覚えてる、エリコ? 最初に会った時。初めて言葉を交わした時。私は覚えてる。
おばさんは戻ってきて、私に言った――ココアでもどう? 私はううん、と断った。
おばさんは駅員さんに列車の時刻を訊きに行った。もうすぐだア、という駅員さんの声が聞こえた。
駅はひどく寒かった。エリコを送る列車が間もなく、やって来る。