第59期 #22

オチのない話が書きたい

 ついこのあいだ愛犬を亡くしたばかりの男。気になっていたエジリという女性からクリスマスプレゼントを渡された。箱の大きさから帽子かと思ったが、持ってみた感じはもっと重たいもののようだ。帰宅し、開けてみると、中には精巧な作りのぬいぐるみが入っていて、これが妙に重い。その重みが変に生々しく、気味悪くなった男は、結局箱から出さないまま床についてしまった。箱がかたかた鳴る。血が溢れる。蓋が飛び、中から血みどろのかつての愛犬の頭が……目が覚めた。汗をかいていた。酒をあおりに行くその途中、ふと箱の前で足が止まった。が、そのままやり過ごす。しかし、その帰りに箱がひっくり返って空になっているのを見てしまう。そして何かが床を掻いて走り去る音も聞いてしまう。男は、恐る恐る愛犬の名を口にしてみた。「ブードゥー!」するとあのぬいぐるみだと思っていた死体が男のもとへ飛んで来て、ブードゥーが得意とした死んだふりの芸を見せるのだ。

 ……これではいけない。
 サゲアリスキィはここしばらくこれでいこうと思うアイデアを出せないでいた。週に三本、いわゆるショートショートを書き続けて来たサゲアリスキィだったが、いつまでもこのジャンルを書き続けてもいられない、と思い詰めていた。
 煙草に火をつける。禁煙中だった。
 散歩に出る。飛沫の曲線が砂に吸い込まれる。この波の音の騒々しさに驚き、けれどそれもいつしか気にならなくなっていった。昔はむせ返っていた異臭の中にいても、今ではこうして煙草の美味さに浸れるし、ブルーシートがめくれていても、直す気にもならない。人には絶えず刺激が必要なのだ。やはりショートショートなのか……。
 ひさしぶりに図書館へ足が向く。一冊だけ出版された自著を探して、まるで汚れを知らないそのページを捲っていると、これは必然的にだろう、ある一節に目がとまった。むせていた。臭いだ。ここはきちんと片づけたはずなのに――外から入って来る臭いだけにやられているのだ。目で追っても内容が入って来ないので、むせながらでも朗読する。
「人類史……上っ、最後のひと……りが、ぼっ、玄関で靴紐を結びなおし……て……いだっ。するど……そ……こ……へチャイ……ムのお……おどがっ!」

 書斎で今日二本目の煙草を吸いながら、サゲアリスキィは耳を傾けている。



Copyright © 2007 三浦 / 編集: 短編