第59期 #12
わたしは如月さんに恋をしている。
わたしは如月さんのことならたいてい何でも知っている。
如月さんはわたしの家から三軒先に住んでいて、朝晩の散歩が日課だ。
彼のストレートティーみたいな瞳がたまらなく好きなのだ。
まるで何もかもを見透かすような瞳に見つめられると、わたしはたまらなく彼に抱きつきたい衝動に駆られてしまうのだった。
如月さんは花とうどんをこよなく愛していて、だからわたしは花の名前をたくさん覚えたり、どこのうどんが美味いのかを日々研究している。
どうしてこんなに如月さんが好きなのかといえば。
出会いは2年も前になる。
わたしはまだ高校生で、漠然と将来について悩んでいる時期だった。
ある日、高校の帰り道に、わたしは堤防の緩やかな傾斜面に寝転んで空を眺めていた。
すると突然上から何かが転がってきて、わたしの頭を直撃した。
それが花を夢中で観察していた如月さんだった。
突然転がってきた如月さんはすまなそうにわたしを見つめた。その瞳があまりにも綺麗で、わたしは言葉もないまま如月さんを見つめ返した。
当時のわたしは漠然とし過ぎる不安に疲れていて、そんな時に彼のあの瞳に出逢ったのだった。きっとあぁいうのを恋というのだろう。
如月さんの家が三軒先であることは後から知った。
わたしは適当な用件を偽造しては彼に会いに行った。予想では、如月さんは喜んでくれている。
如月さんは日向ぼっこが好きで、わたしはというと、縁側で空を眺めながら居眠りする彼が好きなのだ。
そして今、わたしは如月さんの家にお邪魔している。
田舎から送られてきたすいかをおすそわけしに来たのだ。
風鈴の音を聞きながらすいかをうれしそうに食べる如月さんに、わたしは思い切って、
好きです
と言った。
すると彼は例のストレートティーの色をした瞳でじぃっとわたしを見つめ、そして微笑んだ。
わたしは思わず如月さんに抱きついた。
太陽のにおいがした。
そういえば大事なことを忘れていた。
如月さんはゴールデン・レトリバーという犬種だ。