第58期 #9
僕のもとに、その一報が訪れたのは、朝出勤しようとする6時45分のことだった。秒針は、僕の腕時計で50秒。
鳴り始めた固定電話に、出る時間があるか確認した、そのときの映像がなぜか頭の中に残っている。6時45分50秒。
何てことはない。ただ、ふと短針長針秒針とも左半分にあるなと思ったからだ。
「もしもし」
普段あまり鳴ることのない固定電話。そして出勤する間際の電話に、不審な気持ちになりながら、受話器を取った。
「俺だ」
「ああ・・・・・・おはようございます」
上司からだった。
気を抜いていいのか張り詰めるべきか判断できず、気の抜けた返事になってしまった。
「何かあったんですか?」
「おぅ。しかし、天野、固定電話にかけるなんてとか思わないのか?」
クレームや失敗の叱責ではないと声から判断できたが・・・・・・。
上司・鷹山はキレ者だが、頭の線が一本切れているのでは、といわれることも多々ある人物だ。
この人の行動だったらしかたがないと、いつも思っていた。でも、まさか、そんなこと言えるわけがない。
「確かに携帯電話にかけないのかと思うのですが・・・・・・。すみません、もう出ないと遅刻するのですが・・・」
「大丈夫だ。遅刻しねーよ。天野、早く出て来いよ。玄関前にいるから」
え、という間もなく通話口から・・・ではなく、外からクラクションが聞こえてきた。
外に出ると、車が一台。そして上司・鷹山。
「乗れよ」
「あ、はい。・・・・・・どこに行くんですか?」
「会社に決まっているだろう? 何言ってるいるんだ?」
当たり前のように言うが、
「何故迎えに来てくれたんですか?」
「ん? 車変えてな。乗せてやろうと思って」
この人の脳内を一度見てみたいと思った。