第58期 #7

宝の部屋

 僕は飢えていた。
 一人暮らしをはじめてから大学に行かなくなるのも必然的に無駄遣いが増えるのにもあまり時間は掛からなかった。
 原因は、自由な暮らしの中で何一つ不満のない世界の中で感じる圧倒的なこの飢えだ。
 兎に角にも、空腹感とも虚無感とも取れない何かが僕の内側を満たしていて僕はまるで砂時計の中の砂時計を満たそうとするみたいに不毛な行為を続けた。
 次第に学校に行く時間は少なくなり僕の部屋の中は空容器と本と玩具と服とその残りカスで構成されていった。
 幸い害虫の存在は未だ確認されてはいないものの僕の1LDKの部屋は散々な状況で一言で言うなら酷い有様だ。
 ソレは全ては思いのまま何もかもが僕の為に僕が形成した僕の世界。
 でもまだ足りないのだ。
 いくら部屋の中を趣味で満たしてもいくら怠惰な日々を貪っても僕は満足が出来ない。
 それでも、僕は買い、食べ、求め続ける。
 砂時計の中の砂時計を満たす為に何度も何度も。
 足りないまだ足りない。
 ほしいもっとほしい。
 空虚な欲望は果てしなく一人では寂しかった僕の部屋に僕の置き場は少ない。
 気が付いたらホラ。
 僕は、積み上げられた宝の山を踏まないように避けながら一畳足らず万年床を目指している。
 気付いている。でも止まらない。運送屋は毎日のように僕の部屋に本と玩具を運び僕は5分もせずに使うのを止める。
 宝の山がまた一つ積みあがる。
 足りない。
 もっともっともっと……。
 
 そしてある日、某国のミサイルか又は隕石かが原因で僕の部屋はあっさり倒壊した。
 当然、ヒキコモリの様な僕は部屋にいて数年かけて築き上げた僕の世界の下敷きになった。
 それはとても重く身動きとれず角ばっていて肌に刺る。
 ついに僕は自分の世界から出れなくなった。
 コレが僕の最後だ。
 でも空っぽだ、ただ漠然と僕は僕の葬式について考えている。
 そんな時、宝の瓦礫の中で慣れない振動を感じた。
 ソレはここ数ヶ月くらい放置していた携帯だった。
 とりあえず、喧しいので僕はポケットからやっとソレを取り出して開いた。
 眩しい画面に
『元気ですか?私のこと憶えてますか? 景子』
 と書かれいる誰だろう。
 その景子という人が誰なのか僕は知らない。
 間違いか或いはスパムだろうか。
 どちらにしろもうどうでも良い。
 なんだか心が軽いので僕はとりあえず瞼を閉じる。
 相変わらずガラクタの中だけど今日は安らかに眠れそうだ。



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