第58期 #3
夕暮れどき、猛烈な睡魔に襲われ、私は身体を横たえた。目を閉じれば立ったままでも寝てしまいそうだったが、自宅で立って寝るほどの変態ではなかった。
布団を敷くのは面倒だったので枕だけ取り出し、その柔らかいボディに頭を沈めた。
「コラッ」
突然、きつい調子の声が鼓膜を打った。私は身を起こした。
「なんだよ〜、一体…」
「僕は今が睡眠時間なんだ。君とはまったく逆なんだよ。わかるだろそれくらい?」
つまり彼の言い分はこうだった。自分は夜から朝まで重たい頭に圧し掛かられて、微動だにしてはいけないという拷問にも似た仕事を全うしている。それなのにまだ日が沈む前から働かせるつもりか、このおたんこなす。時間外労働もいいところだ、ぼけやろう。いいんだぜこっちは、出るとこ出たってよぅ。
なるほど、もっともな言い分である。私はこっくりと頷くと、お腹の上に彼を乗せ、首の下には自分の腕を差し入れた。
彼は満足そうに呟いた。
「一度でいいから枕を使ってみたかったんだ」