第58期 #15

わくわく

6月も終わり、春の仕事を終えた大人たちが一斉に故郷に帰ってくる。
俺は久しぶりに兄貴に会えるのを楽しみにしていた。
最後に会ったのは正月以来だから、半年振りにもなる。
叔父さんも戻ってくると言っていた。
それでもみんながみんな帰ってくるわけではないらしい。
ある者は故郷にも帰らず、また地方で働くようなことも聞いた。
さらに凄いやつになると、故郷に来て、ゆっくりしないうちに海外に行くそうだ。
俺も来年からそんな働く大人になるのかと思うと、かなりげんなりする。
最近では大人になるための準備も着々と進んでいて、
仲間と遊ぶ時間もめっきり少なくなっている。
大人になるともっとそんな時間が減るんだろうと思ってげんなりしていたのだ。
ただわかっているのは、何年か働くと故郷に戻ってこられるということ。
俺の母さんや、友達の親もここで暮らしている。
それでもみんな働く年数はバラバラで、去年まで稼ぎ頭だった近所のやつは、3年で戻って来たそうだ。
「男は帰ってきてもまだ仕事がある。」
と言っていたが、割と暇そうにしているのは何故だろう。
俺の叔父さんはまだ働いているというのに・・・。
そんな事を考えながらボンヤリしていると、兄貴の姿が遠目に見えた。
正月に会ったときとは見違えるほど逞しく、締まった体をした兄貴はかっこよかった。
かつての友はライバルとなり、お互い凌ぎを削り、どちらが優れているかを競う。
兄貴を見ていると、早くそんな世界に飛び込みたくなった。
早く自分の名前がほしい。
立派な競走馬としての名前だ。



Copyright © 2007 野川アキラ / 編集: 短編