第58期 #12
夏、超人気作家・峰よしおが大手出版社に移籍した。待望の移籍後第一弾が発売予定の某出版社では、社員全員が『峰よしお最高』と書かれたTシャツを着ることが義務づけられていた。この夏は、褒められて伸びる男・峰よしおのちょうしを、どれだけのせることができるか、ここに社運がかかっている。失敗は許されない。そんな中、ただ一人流れに逆らう社員がいた。本物しか愛せない、やさぐれ編集者・ジョー淀川である。
「おいジョー。なぜ峰よしお最高Tシャツを着ない。きさま、社会をなめてるのか。」
ジョー淀川は部長に襟首をつかまれた。締めつけられ、顔を真っ赤にしながら彼はこう言った。
「ど、どうもこんにちは。自分に正直でいたい男、ジョー淀川です。」
「なにをっ。こいつ!」
部長はジョー淀川を突き飛ばし、机の上に転がした。書類が宙に舞って、峰よしお最高Tシャツを着た社員が思わず声をあげた。
「おい、ジョー。おまえ給料もらってるんだろうが。おまえの仕事はな、峰よしお最高Tシャツを着ることなんだよ。大人になれよ。」
部長が肩に手を置く。
「ウソつき野郎がおれにさわるんじゃねえ!」
部長の手は弾け飛ばされた。
「部長、あと5分ほどで峰よしおが、今後のアドバイスを求めてこっちへやってきます。早くジョー淀川くんに峰よしお最高Tシャツを着せないと……!」
「そんなことはわかってる、誰か手伝え!」
あっという間に、峰よしお最高Tシャツを着た男達にはさまれるジョー淀川。
「ジョー淀川、貴様に選ばせてやる。Mサイズか。それともLサイズか。」
「淀川くん、着ちゃいなよ。」
追いつめられたジョーは、後ろ手でデスクの引き出しを開けた。
「これは、社則だ!」
社則とは、会社の決まり事のことである。ファイルを部長に突きつけるジョー。
「それがどうした、あきらめろジョー。」
「ここを読んでみろ。」
「『服装は自由とする』だと。きさま社則を盾にする気か。」
「おいジョー。そんなもん、今回は峰よしお最高Tシャツが優先に決まってるだろ。」
「いいか、おれは真面目に社則を守っているに過ぎないんだよ。おれに峰よしお最高Tシャツを着せたかったらな、そっちが優先です、の文書を社長の署名入りでもってこい。今すぐもってこい。峰よしおがここに来る前に文書が到着したらおれの負け、間に合わなかったら、おれの勝ちだ。」
部長の判断は早かった。
「おい、バイトのクソ坊主、今すぐ社長室へ走れ!」