第58期 #11

男たちのヤマト

「弊社の採用面接にご参加いただきありがととうございました。慎重なる選考の結果、残念ながら今回は採用を見合わせていただきます。今後のご活躍を心より・・・」
 した手かつ高圧的な態度をとる紙切れを前に、私は無気力にひまを持て余していた。不採用になったことなど気にしてはいない。有能な逸材をみすみす逃したこの会社が不利益を被るのみだ。私は断固落ち込んでなどいない。いないのだが、それでもこの紙切れは、私の壮大なる人生の展望をジリジリと追い詰めるだけの力はもっていた。
 くそお。なみなみとみなぎった労働意欲!そして社会へのどす黒い妬み!一体こいつらをどこへもっていけばいいのか。フラストレーションの塊となった私は自然とその吐け口を探した。ふと、ごみ箱の中で一際異彩を放つカードサイズのチラシと目が合う。
「ラブコール倶楽部  090−×××−○○○ 
    40分   12000円〜      」
 なるほど。さまざまなタイプの女性と話すことで、それが私の人生におけるかけがいのない経験となることは言うまでもないことだし、少々の金銭で私の家まで訪ねてきてくれるというのだから、もはや迷う余地はないだろう。私は颯爽と懐から携帯電話を取り出し、記載の番号を軽やかにプッシュした。すると間もなく、敬語の中にも威圧感ありといった感じの男が応対する。事務的な質問をそつなくこなすと、私は最後にこう締めくくり、電話を切った。
「極上のを頼む。」
実に大胆かつスマートである。
 30分ほどでみほちゃんは到着した。彼女との会話の内容を言う気はもちろんないが、とても素晴らしい時間であったことは報告しておこう。それにしてもみほちゃんを待つ途中、実家からの荷物を届けてくれたクロネコヤマトの配達員の男性にチェンジと言おうか迷ってしまった私の優しさと許容範囲の広さには、全く自分でも驚くばかりである。



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