第57期 #4

eisaku

栄作はおしゃれな17歳。
モテるためにバック転の練習を開始した彼は、それはそうと、いつどのようにして女の子にバック転を見せつければオールOKかという疑問に対する答えをみつけることができず、若さ大爆発。眠れぬ夜はPuffyのベスト盤をBGMに空を飛ぶ夢を見た。

彼は九州に飛んだ。
九州はいいことずくめ。おれはなにをうじうじ悩んでいたんだ。バック転なんてどうでもいい。大事なことはゲット・セット。そう、九州に行けばとんこつ。

たまたま飛行機で隣の席に座っていたジャニ男と意気投合した彼は、最近腹がでてきた、という悩みを打ち明ける。それに対するジャニ男のひとつの解答が、
「攻めろ、攻めろ。」
その言葉を聞いた瞬間、シートベルトを引きちぎって海へスカイダイブ。ああ、おれもこんなスピードで落下することができたなんて。
 同時に、栄作をレーダーで発見したアメリカ軍がすぐに戦闘機を7機発進させ、彼を撃墜にかかる。7回連続でロック・オンされるという人生初の体験をする。
そうか、おれはここで死んでしまうのか。そうかそうか。よし、それなら、

「OK楽しもう。」

世界中のカモメたちが栄作に集まって行く。
「すいません間違えました。レーダーに映ったあれは天使でした。」
「トゥギャザー、トゥギャザー、なにを言っているんだね君は。なんの脳内革命かね。え、ちょっと待って、あ、天使だ。」
やばいやばい。おれのからだのなかにはこれほどのエナジーが。
さらに世界中から6億800万羽のカモメたちが夕日をバックに集まり、北半球の空に文字を形つくる。
『そんな重たいバッグはこっそりドブ川に投げ込みな
 たぶん明日からスパッとワン、ツー、スリー
 おしゃれな映画は名前が長いが
 医者の息子はプライド高い
 奥田さん宛に電話がきたのに奥田さんが見当たらないときは
 折り返しでよろしいでしょうか
 雨天決行でたぎる身体能力
 ゲットセット そこの坊や、生きるっていうのはな
 狼スイッチON!
 だからホコリをかぶったサーフボードを取り出して
 走って家を飛び出し一気に3塁へヘッドスライディング
 その足でステージにジャンプして乱入してギターを奪ってソロ代行
 スタンディングオベーションのビッグウェーブに乗るのさ』

その文字列は編隊を組み、大移動をはじめ、やがて宇宙へ飛んで行った。
そのなかの『忘』の右端に、栄作はいた。



Copyright © 2007 不思議な球体に吸い込まれてゆくハンニャ / 編集: 短編