第57期 #25

いささか長めですが、これが短編第57期への曠野反次郎の投稿作品の題名ということになります(良い題名が思い浮かばなかったのでこうなりました)。

 アイディアは移動中に思いつくことが多い。バイト帰りに夜風に吹かれて自転車を漕いでいる時や、朝帰りの車内でぼんやり外を眺めている時に、不意にコロンと頭の中に転がり込んでくる。移動することで、知らず識らずのうちにはいってきた何らかの情報が、脳味噌をいい具合に刺激するのだろう。
 トイレでぶりぶり放り出している時に思いつくこともよくある。ウンと出した分ストンとやってくるのだろう。狭い蒲団の中で、恋人の寝顔を見ていて思いついたことも二、三度あった。これもやはり出した分が補充される感じで、エロティックな行為の後だというのに、いやむしろそれ故か、爽やかなものであったりした。
 アイディアを思いついてもすぐには書き始めない。だいたい二、三週間は放っておいて、特にアイディアを形にしようとすることもしない。忘れてしまうことも多いが、時折不意に浮上してきたりする。その度に、頭の中で、コロリ、コロリとしておくと、いつの間にやら、小さな断片だったものが、文章の形になっている。
 しかしここでもすぐに書き出したりはしない。〆切当日までまた放っておく。推敲を重ねるというような殊勝なことからではなく、単に書き出すのがめんどくさいからで、明日出来ることは明日にするというドン・ガバチョの教えを忠実に守っているのである。
 〆切当日も特にアタフタすることはない。シーズン中であればのんびり野球観戦などする。今日も実際に、鳥谷の押し出しサヨナラデッドボールで万歳三唱して、こっそりやってるミクシィで「今日のヒーローは岡田監督を退場にした谷球審やったね」などと書いてから、やっとワープロソフトを起動させた。
 起動させてもすぐに書き出すわけではない。「現在の投票状況」を無闇にリロードしながら、書く気になるのを待つ。残り一時間ほどになってようやく切羽詰まって書き始める。大抵は転がしておいたものをそのまま引き写すようにして書くのだが、たまにその時の思いつきを優先させる場合もある。今回は思いつきの方だ。
 推敲は特に行わない。というより行う時間がない。時間があっとしても、厳密に推敲し始めると一字も残らなくなりそうだから、誤字脱字のチェックにとどめておく。なんともいい加減だが、ライブ感がそれなりにリズムを作ってくれて、むしろ呻吟して書くより書きやすい。
 ここまで書いて残り十分ほどとなった。字数も丁度良さそうで、後は投稿するのみ。



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