第57期 #2
惚れ薬って知ってるよね。飲ませた相手が自分を好きになるってやつ。
でもさ、みんな本当にそんなものがあるなんて思わないわけ。もしあったらなぁ、とか思うかもしんないけどさ。
あるんだよ。惚れ薬。吊り橋効果ってしってる? 怖い所でさ、心臓がドキドキしてる時に、近くに人がいると、その感情をその人への恋だって、思い込んじゃうの。で、惚れ薬使って意中の人の心拍数を上げてやるわけですよ。
僕の父さんは内科医でさ。家には薬がいっぱいあって、風とかひいた時凄い便利なんだけど、当然その惚れ薬もあるわけよ。
で、その惚れ薬を五百円で買わないかって、昔友人に聞き回ったわけ。まあ当然だけど、誰も信じなくてさ。でも、一人だけ信じちゃった馬鹿が……、というより僕が誘ったんだけど。まあそいつが好きな子に告白したいからって、薬をくれっていうの。せこいやつだよね。まあ、売ったのは僕だけどさ。
それから数日して、そいつが告白するって言ってた日がきたのさ。
僕としては、服用者の無事を見守るために……って、ホントはどうやってあいつが薬を飲ませるか、ってのが気になったわけ。
学校の帰り道でさ、あいつ突然走り出して、大声で名前呼んでさ、息切らしながら、「三年間、ずっとあなたのことが好きでした!」って大声で言ったの。
絶句したね。薬は? って。でそいつはお構いなしに、「付き合ってください!」ってやっぱり大声で叫んでるわけ。
彼女は気圧されてたっていうか、とにかくビックリしちゃっててね。僕もびっくりしたんだけど、次の瞬間にあいつ、鼻血出しながらぶっ倒れちゃったの。顔真っ赤にして。
ほんと馬鹿だよね。あいつ自分で薬飲んだのさ。心臓が暴れ回ってさ、気持ち悪くなってたんだろうね。僕の顔は青くなってたと思うよ。目の前真っ暗なちゃって、気がついたら彼女があいつに駆け寄ってさ、ティッシュ出してんの。
映画のワンシーン、それもクライマックスのを観てる気分になってたよ。鼻血出して、意識朦朧として、小声でなんか言っているあいつの手をとってさ、彼女うんうんって、うなずいてんの。
僕はなんとも言えない気持ちになっちゃってさ。
後は多分ご想像通り。薬の使い方は間違ってたけどさ、結果オーライってやつだね。
でもさ、もしかしたら彼女があいつに驚いて、それが吊り橋効果になったって……。まあ、どうでもいいか。あいつらは幸せです。