第57期 #1

ボツ 〜こういうことだよ〜

まあ何だね、久しぶりにペンを握ってみたわけだが、どうも意欲がわかないね。
オレは少しため息をつきながら部屋を出た。学生時代のレポートにしたって、論文にしたってそう。こっちは三日三晩寝ずに考えたのに、その返事は「良」それだけ。小学校だっけか? 五時間かかった粘土の置物。評価は「普通」普通って何だよ。オレが普通ならほかの奴等はどうなんだよ…… 普通ってのは一般的の事だろ。腕のない招き猫なんて普通の招き猫だって売られた日には陶器屋のオヤジと大喧嘩だよ。
 いつの間にか居酒屋の前についていた。
静まり返った町にぽつんとそびえる明るい居酒屋。
のれんを押し上げて入るといつもの威勢のいい挨拶。
これだって普通の挨拶っつたっていいんだろ? まったくやってられないな。
まぁ世の中そんなもんか。
「ビールと枝豆をくれ。」
大将はいつものだねって、普通だねなんていわれたら気分が悪いだろうがね。
あんたの注文は普通だなんてね。
「先生。なんだい、浮かない顔して。町じゃ面白い事もあるだろ。」
「ふん、やってられないさ。オレがビールを飲んだら終わりだってよ。何でもどっかの作家先生が意欲が沸かないらしくってね。面倒だから止めるんだってよ。枝豆くらい食いたいもんだ。」
「どういうことだい?」
オレはビールを啜った。



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