第57期 #16

手紙

 高校時代は「自分さがし」の時期である――などと言ったのは確か保健体育の教師だが、そうすると僕が君に宛てて書いているこの手紙も、そんなことの顕れなのかもしれない。あるいは、もっと別の解釈もできるだろうか。「高校時代には、一生を台無しにするような行動をとる危険性がある」――そんなことも、教師は言っていた。
 
 この間、久しぶりに会った友人から一本のビデオを借りた。彼はいささか興奮しながら、しきりに絶賛していたけど、まあ、つまらなくは無かった。
 そういうわけで、僕が面白いと思った本や映画も、君にしてみればちっとも魅力的では無いのかもしれない。僕だって、小さいころは何故か福山雅治が好きだった。何故だろうね。「男」としてカッコイイ! とでも思ったのか。そりゃ今だって嫌いじゃないけど、別に惚れちゃいない。

 そういえば、新しい物語ができたんだ。マジシャンの話なんだけど。でも彼がマジシャンであることは誰も知らなくて……つまり彼は自分自身が楽しむためだけにマジックをするんだ。他人に見せるあてもなく。
 どうだい。君にしてみれば、下らないの一言に尽きるかな。僕自身、もはや冒頭部分を読み返すことすら躊躇われるけど、一応同封しておく。軽蔑の一つもくれてやって、書き直してもらえたら有難い。読むのが辛ければ、捨ててくれても一向に構わない。君が酷いという感想を持てば持つほど、僕の「感性」とやらも、少しは磨かれているのだろうから。あるいは、まったく見当違いの方向に進んでいるのか。今の進行方向だって定かじゃないけど。

 そうだ。徹底的にカタストロフィーを求めたり、かと思えば、クセのある恋愛ものを進んで書き散らかしたりする。それが僕で、君は違う、のかな。とにかく、グニャリグニャリと曲がりくねった気味の悪い虫のような僕の価値観その他諸々が、まっすぐな君によって全部否定されるなら、それは望ましいことなのかもしれない。少し寂しい気もするけど、それなら、あっさりとこの物語は目も通されず消えるのだろう。

 そうすると、この手紙だって――勢いで書いた詩文が、暫く経つと意味不明になったりするように――君は見つけた瞬間消し去ってしまうか、クシャクシャに丸めて闇に隠してしまうのだろう。そして二度とこの手紙は日の目を見ない。今、僕はそれを祈ろう。

 幸せですか、なんて訊かないよ。「自分は見つかりましたか」とだけ訊いておく。はは。



Copyright © 2007 壱倉柊 / 編集: 短編