第57期 #15

見えない出口

 早朝だというのにキャンキャンと甲高い耳触りな声、全身を撫で回される不快な感触。
湯気を立て悪臭を撒き散らす、皿に山盛りの残飯。

今日も鬱々とした一日が始まる。

 ぞわぞわとした手の感触に、臀部が総毛立ち、ブルブルと震えてしまう。
かつては、その様を見て上がる嬌声を聞く度に、激しい殺意を覚えたものだ。
 だが今はどうだ。プライドはとっくの昔に破壊し尽くされ、すえた香りの残飯すらも喜んで平らげる、
みっともない屑に成り下がってしまった。
 ああ、何もかもが自由だった頃が懐かしい。移動の際は必ず監視付きの上、
珍妙な服を着せられて晒し者にされている現在では、もはや望むべくもない状況だ。
 街中で擦れ違う仲間たちの希望を失った暗い瞳に、より一層気分を重くさせられる。
…だがしかし、過酷な環境にいるのが自分だけではないという、後ろ向きの連帯感が唯一の心の救いとは…。
 自らの運命を呪いつつ、私は何の意味も見出だせない生を、ただ消化していくしかないのであった。


「あらあ、おはようございますぅ。お宅のワンちゃん、あんまり吠えなくなったわねえ」
「そうなんですよぉ。飼い始めの頃はうるさいくらいだったんだけど、最近やっと懐いてくれたみたいで……」



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