第56期 #13

ジャ、ジャッジャッジャッジャ、ボンボンボンボン

 悪魔6人組が、1時間目に乗り込んできた。
「くそっ! 朝からおまえら!」
先生は悪魔を見るなり、前のめりに走り込んで行って先頭の悪魔を押し出そうとした。
「危ない、先生逃げて!」
先生はあっという間に残り5人に囲まれ、両手足、そして首をきつくつかまれた。
「こ、腰が!」
悪魔たちはそのまま、歴史の先生が浮いてしまうくらいぐいぐいひっぱった。
「やめて! おねがいもうやめてぇ!」
 一番後ろの席の女の子が立ち上がって泣き出してしまった。
「ちょっと、男子! あんたら先生を助けてあげなさいよ!」
「かわいこぶってんじゃねえよ。」
男子も立ち上がり、悪魔たちを指差して叫んだ。
「おまえらもなあ、腹の底ではもっとやっちまえって思ってんだよ!」
「ば、ばかじゃないの。」
「そうなんだろ。悪魔さまさまなんだろっ!」
 みんな思わず悪魔のほうを見た。このまま悪魔たちが先生の身体をひっぱり続ければ、1時間目はおじゃんんになる。
 やがて、悪魔たちは先生をやや回転させながら一瞬投げ上げ、各自持つところをローテーションさせた。そしてすぐにまた先生の身体をトスし、ローテーションを繰り返す。一回転、二回転、三回転。先生の身体は水平に右回転していく。
「悪魔にも言い分があるんじゃ……。」
「おれもそう思う。まずは悪魔がなぜこんなことをしているのか、それを聞いてみないことには。」
「言い分もなにも回転してるじゃない! どうすんのよ。」
 下手に手を出せば、先生は床に落下してしまう可能性がある。というか、どうやって助け出せばいいのか見た目よくわからない。しかし、一秒ごとに先生の腰はパッキパキになっていく。
「それはおまえ、回転が終わるまで待つしかねえじゃねえか。」
「先生! 首は守って、首は。」
「そんなアドバイスがなんになるっていうのよ。男子はやく行きなさいよ。」
そのとき、悪魔の残虐さを見て泣き出してしまっていた女の子が、立ち上がって言った。
「みんな座って。私が行く。」
 みんなが振り向いて彼女を見た。
「なに言ってんの、幸子。」
「幸子っ。」
「幸子やめなよ。」
「幸子、男子にまかせなって。」
「幸子! おれ、じつはずっとまえからおまえのことがっ!」

「えっ!?」

みんな、今度はまさとしの方を振り向いた。悪魔も振り向いた。
「ピューイッ! ピューイッ!」
「私も。私も好き。」
どすん、と音がして先生が床に落ちた。



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