第56期 #10

夢を追う少年

少年は、土手の斜面に仰向けに寝転がりながら、夜空を見ていた。

その少年は、母方の実家がある、見渡す限り田圃の田舎に来ていた。
普段、都会に住んでいる少年にとって、田舎の空は神秘的だった。
空気が澄んでいるからか、周りに人工の灯りがないからか、星が良く見えるのだ。

少年には、異常な数に思えた。
星の数ほどという言葉を、体感した瞬間だった。

ふと、手を伸ばせば星を掴めるのではないかという考えが頭に浮かんだ。
少年は、星がとても高い所にあり、決して掴めない事を知っていた。
しかし、田舎の星は、普段よりかなり近くに見えたのだ。

手を伸ばす。しかし届かない。
いくら伸ばしても、手は星の光を遮るばかりで、向こう側には行かなかった。

ふと、空を飛べばもっと近くに見えるに違いないという考えが頭に浮かんだ。
少年は、旅客機に乗って海外へ旅行した経験もあったが、どうも自分の追い求める状態とは違う気がした。

もっと、自由に空を飛び、星に手を伸ばしてみたい。
少年に生涯の夢が生まれた瞬間だった。


十数年の月日が流れ、少年は航空自衛隊の戦闘機乗りになっていた。
国を守りたいとかではなく、星に手を伸ばしたいという幼い頃の夢の為だった。
星が、光の速さで行っても何年も掛かるような距離にある事は知っていた。
しかし、手を伸ばしたいという夢は健在だった。

ある日、夜間に高高度まで上昇する訓練があった。
星に手を伸ばす、またとない機会だと思った。

高度が上がって行く、雲を突き破り、天へ。

機体を安定させてから、さらに天を仰ぎ見た。
そこには、一面の星があり、以前田舎で見た時よりもさらに近くに見える、そう思って見た。

しかし、星は遠かった。
いつか田舎で見た時よりも、さらに遠かった。

少年は、落胆した。
星は、コックピットの透明な壁に阻まれていた。

いつか田舎で見た時は、もっと近くにあったのに。

ふと、緊急脱出の装置を使えば、直接星を見る事が出来るのではないかという考えが頭に浮かんだ。
後の事は、考えていなかった。
次の瞬間、少年は座席ごと宙を舞っていた。

物凄い速度で落下しながら、少年は星を見た。
そっと手を伸ばす。

掴めない。

次は、宇宙に行こう。
0度を下回る気温と薄い空気で、意識が朦朧としながらも、少年はそう思った。


それから数年後、少年は宇宙飛行士として訓練を受けていた。
星に手を伸ばしたい一心で、勉強したのだ。

少年が、宇宙船の窓に落胆する日は、刻一刻と近付いている。



Copyright © 2007 Qua Adenauer / 編集: 短編