第55期 #3
「この世界は、僕と真散のふたりだけなんだろうね」
「どうなさいましたの?季月さま」
真散は季月の顔を不思議そうに覗き込んだ。
「だって僕の世界は、この屋敷だけだから」
季月は空を見上げた。それにつられて、真散も見上げる。
よく晴れ渡った空は、昨日とまるで違う。
「僕はこの屋敷から出たことなんて一度もない。それは真散だって同じだと思うんだけど?」
「そうですわね、わたしもこの屋敷が、自分の世界のすべてですわ」
真散は、手を口に当てて軽く微笑した。
「でも、この屋敷には鳥や花や木、虫たちだって居りますわ」
李月の方を向く。
「そう考えると、この屋敷から見える空だって、わたしたちの世界ではないでしょうか」
「その通りかもしれない」
「でしょう?だから、季月さまの世界は、わたしだけではごぜいませんわ」
「だけど、いつか君は僕の目の前から居なくなる、と・・・・考えてしまうんだ」
季月は下にうつむいて、哀しそうな顔になった。
その姿は、幼くて、まだ何も知らない子供のようだ。
「そんなこと御座いません。わたしはずっと、季月さまに仕える者でございますわ」
「だったら僕は、君の主人として一生、真散を働かせるよ?」
「えぇ、嬉しいですわ。わたしもやり甲斐があります」
どちらかが消えるのは どちらかの世界が 崩壊することだ。