第55期 #16

モンスターハウス

 昼飯食うとこ探してたらお好み焼き屋があったので、どれ入ってやれ、と飛び込んでカウンターに座ったら店の親爺が三つ編みしてて、注文した豚焼きを渡される時に「男の俺が女言葉使うなんておかしいと思うかしら?」って話しかけてきて、ぼくは「んん?」ってなった。頭ン中、記憶のどこかに引っかかるものがあって、なんやろと思いながらソースの上で踊るカツオブシ睨んでたら、わかった。ドラクエ3だ。「女のあたしが海賊のかしらなんておかしいと思うかい?」(うろ覚え)だ。ぼくが「いえ、別に」と返事すると、親爺はニコリともせず奥に引っ込んだ。なんなんだ。お前の言葉づかいなんか知らねえよ。そりゃ海賊のかしらが女だったら萌えるけど、お好み焼き屋の親爺が女言葉使ってもきもいだけ。ん? あれ、よく考えたらあの親爺とこの女海賊、対応してるようでしてねえな。「女市長って違和感ありますか?」みたいなもんか? いやこれは海賊の方か。あの親爺に当てはまる例が思いつかん。あ、じゃあ、おかしいじゃねえか。「いえ、別に」なんて言っちゃったよ。嘘ついちった。ヒェ〜。その前に三つ編みがおかしいよ。ま、どうでもいいや。この後も三件ほど営業だし、さっさと食って行かんとな。いただきま〜す。
 半分ぐらい食ったら親爺が帰ってきた。親爺再び。髪型が変わってるというギャグかなーと思ったけど同じ三つ編みだったので、ちょっとガッカリして、なんでガッカリすんねんと自分で突っ込んで、無視して食い続け……ようとしたら親爺が「サービスです」ってぼくに小さい皿を渡してきた。言われるまま受け取ると、皿にはスライスチーズが一枚乗っていた。またんん?ってなって「何ですかこれ?」と聞き返すと「サービスです」ってそりゃさっき聞いたしわかるけど、チーズ? お好み焼きにチーズ? え〜。まあそりゃマヨネーズかける人も居るから、チーズもありなのかもしれんけどさ、ん、いや、チーズ結構うまそうに思えてきた。ソース塗ってチーズ乗せて青海苔かけると、チーズの黄色に青海苔の深緑が映えてうまそう! ピザを連想するとダメだけど。あっ、でももう半分しか残ってないよ。しかも既に青海苔とカツオかけちゃってるし、その上からチーズはなんか嫌だな。持ってくんの遅えよ親爺。とりあえず「どうも」とお礼を言うと、また親爺は無言の無表情で奥に消えていった。なんなんだ一体。あ、もう一時。



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