第54期 #13
ドアを開けると床に人が倒れていた。
しかも、お尻を高くこっちに向けてなんか怪しげに倒れていた。
「何やってんのお姉ちゃん」
「……猫が背伸びする時のポーズ」
お姉ちゃんが苦しげな声で言う。
「なんか、変態に見えるよ……てかエロ」
私はお姉ちゃんを避けて部屋の角の灰色い冷蔵庫から牛乳瓶を取り出しながら答える。
「そ〜ぅ、結構きくわよ?菊もやればヨガ」
「ヤダよ」
短く答えて私は腰に手を当てて牛乳を飲む。冷えた牛乳瓶で飲む牛乳はやっぱり冷たくて美味しい。スーッと食道を通って広がるのが判る。
「よっこらしょっ」
お姉ちゃんは体勢を戻して胡坐をかく。
「ふ〜う、あたしにも頂戴」
「ん」
「サンキュ」
長くて細い指が私の手から牛乳瓶を受け取ってこくりと白い喉が動く。半分だけ瓶の中に残った牛乳をお姉ちゃんは飲み干した。
「美味しかった」
「あ」
汗ばんだその顔に私はドキドキした。
「どした?菊乃」
私は緊張を気付かれないように何も言わずにお姉ちゃんの目の前に屈みこむ。
お姉ちゃんの呼吸と匂いに鼓動が早くなるけど私は止まらない。
「お姉ちゃん」
「な、何?」
私の顔とお姉ちゃんの顔が近づけて真っ直ぐ目を見る。
どんどん距離が縮まって、そして……。
―プチ♪
「痛っ!」
突然のことに呆然とするお姉ちゃんから離れて私は右手親指と人差し指の間の戦利品を得意げに見せた。
「伸びてたよ」
少し太めの黒い鼻毛。