第53期 #4

太陽のモダニズムと月の背徳

 朝の集荷を終えて、一服しているところで電話があり、配達のため国道の土手をハイエースで走っていた。道沿いの野原に屈み込んだ人の姿が見えた。赤いランドセルを背負っているので小学生だろう。別に構うことはないのだが、おかしく感じて思わず車を停めてしまった。ここは最寄の住宅街から約3キロほど離れていて閑散とした、子供があまり来る所ではなかったし、安全に遊べる所とも言い難い。そんな場所へ来るのには、子供なりの大事な理由があるのだろう。暫く見ていると、それは小学校低学年くらいの女の子のようだ。ただひたすらに地面を眺めている。大きなススキの揺れる野原で、彼女は瞑想をしているような佇まいだった。風を感じているその心が、澄んだ空気を吸い込んだのを遠く確認して、僕は車を発進させた。
 日曜日といっても、無趣味で何もすることがない僕は、だから少し歩いてみることにした。散歩をするという行動は、無数の考えが採りとめもなく頭を巡る。そのうちのひとつにこの間の小学生のことがあった。それで、その小学生がいた場所へ来てみた。ススキ野原と、ぬめった粘土のような土。ここに来ることにあの子はどんな意味を持っていたのだろう。多分この間、彼女が居たであろう地点に来た。何か地面が掘り起こされた形跡があるので、少し土を掘り起こしてみると、花が埋められていた。この花に彼女はどんな意味を託しているのだろう。僕は一服して立ち去った。
 何週間か僕の日々が過ぎ、何度か雨が降り、ぐっと気温が下がった。配達でいつもあのススキ野原を差し掛かるとき、ランドセルが見えないものかと目を凝らしたが、あの日以来その存在を確認できてはいない。これだけ寒くなったから、もうここにあの子が来ることはないのかもしれない。だが、せめてあの花が埋められてあった場所に、喫茶店の地図を書いたメモを残すことにした。
 いくつかのドラマの最終回を見た。外に出れば桃色の花が光っている。僕は丘の上の喫茶店に行き、あの小学生が来たら渡してくれとマスターに頼み、小花の模様の花刺しを預けた。希望じゃなくても、笑顔のために生きていくのも良いと思う。その夜、東京行きの夜行バスに乗った。月はどこまでも細長く、行き先を追い掛けて来た。



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