第53期 #3

ある朝目覚めると彼女は一輪赤いの花になっていた。
仕方がないので鉢を買ってきてそれに植えた。

毎日決まった時間に水をやり、たまに肥料をやった。
花に明るくない私は花の名前など知らなかったが
その花はとても美しかった。

私は家にいる間は花を常に傍らに置いた。
花は私の心をすっかり奪ってしまった。
特に心地よい音楽をかけながら、お気に入りの白い椅子に腰掛け、
好きな作家の分厚めの小説をゆっくり読みながら
たまに花を眺め過ごす。
この時間が私にとって一番の幸福であった。
花は美しかった。


ある朝目覚めると花は彼女に戻っていた。
彼女は花に詳しかったので花の名前を尋ねてみると
すぐに教えてくれた。
その花の名はよくは知らないが
本の中でなんとなく読んだことがあるような
そんな名前だった。

私はその花を近所の花屋に買いに言った。

花は、美しかったのだ。



Copyright © 2007 久貞 砂道 / 編集: 短編