第53期 #31

トリニティ

あらゆる事態を想定できる人間が死んだ。

死人受付窓口で、神の使いが、その人に問い質した。
「地上に生を受け、お前はしたことはなんだ?一つだけ挙げろ。」

その人は、答えた。
「やはり、このような聴取があるのか。私はあらゆる事態を想定し、公に書き残しておいた。このような事態すらだ。探してもらえれば、見つかるはずだ。このような私の存在は、ユニークなのではないか?それが私の誇りだ」

神の使いは、言った。
「そのようだな。ではそのお前の答えに、私がどのように回答すると想定していたのだ?」

その人は、答えた。
「あなたは、ただの神の使いだ。私の想定によれば、天国というシステムは、完全無比な無機質さなのだと想定していた。神の意思により、支障なく全てが完璧に機能する。一介の歯車であるあなたは、恐らく無機質に私に関する情報を収集する為だけに、機能するだけだ。つまり、あなたは何も実質的な回答はしない。天国において何かを判断できるのは神だけだからだ。」

神の使いは、言った。
「ここでは、神はあらゆるところに宿る。細部にも末端にも。」

その人は、言った。
「そのような解釈もできる。集権型も分散型も結局は、神の下では、同じであることは想定していた。
ただその問題は、あなたも神も、私ですら神になってしまうことだ。そして私は自分が神ではないことだけは知っている。」

神の使いは、言った。
「あなたには、自分が神ではないと知っていることにより、神の名によって、この言葉を届けよう。天国へようこそ。」

その人は、言った。
「このような結論になる事を想定はしていた。だが、喜びと共に、私に訪れている、この感情はなんだ?」

神は、言った。
「それが驚きだ。道を知ることと、実際に歩むことは違う。兄弟よ、だから、地上での生でお前がそうしてきたように、ここ天国でも、歩け。そして、驚け」



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