第53期 #28
一発高校卓球部が陣取った、中二階の席で、さっきまで眠っていた一年、吉村一発の目が開き、寝起きで飛び降りた。
「今日のおれが一番好き!」
空中で背中のゼッケンがめくれあがり、ゼッケンの下に書かれている『影で努力するエース』という文字が見え隠れした。置いてあったスポーツドリンクが飛び散らかした。
トーナメント表で、吉村一発の名前から飛び出した一本のラインを追っていくと、いつのまにかてっぺんまで来ている。よく見ると、終了した試合には赤マジックが入り、吉村の試合にはすべて「1」と棒一本、殴り書きされている。これは、試合中、選手が放った打球の数である。
スポーツとは、真剣勝負、刀で斬られれば人は死ぬ、ということに気づいた卓球界では、3年前から新たに「OKルール」という特殊ルールが採用されていた。一発で25点分の威力がある打球が放たれたとき、そのとき、25点が加算されその試合はもうOKになるのである。
一球目で25点入らなかったら、おれは今日死ぬ。今日のおれが、今日のおれが一番好き!
吉村は、一発目から人生を賭けるという無敵の作戦で、気がついたら決勝までやってきていた。ここに立っていた。体育館のど真ん中に立っていた。卓球台をはさんで、昨年の覇者が、顔が傾くくらい吉村を見つめながらスタンバイ完了している。そして突然、昨年の覇者が、その鍛えに鍛えた腕を伸ばし、吉村一発の頭の上方へ、ラケットを突き刺すように向けた。
「あ、あれは!」
「予告OKだ!」
負けたけどまだ一応試合を見ているみんなが叫んだ。はじまるぜOKショットの応酬戦。と、卓球の神が言った。
しかし、吉村一発は、予告OKに答えるかわりに、突然、ラケットを遠くの方へ投げ捨てた。それはもう、すごい勢いで飛んで、扉から出ていった。体育館が静まり返った。そして、ラケットを持っていたほうの手が、相手の頭の上を向いていた。予告OKである。
「もう1個少ない、0球で勝つ!」
原子力発電所が爆発した。