第52期 #4

 私は髭が濃い。息子も小学生だが立派な髭を生やしている。そのためイジメを受けている。
 父として自分を責める気持ちもあるが、悲観しきれないのは息子の生い立ちのためだ。

 私と妻は子供を作れない身体だった。それでも二人で生きていこうと決意して結婚したのだが、どうしても子供が欲しくなった。
 そこで親切な宇宙人さんに頼んで、私たちの細胞から子供を作ってもらった。

 輝喜という。
 私と妻にとってこの子は輝く喜びだ。息子にもそんな幸せを手にしてほしいと願って名付けた。
 ところが宇宙人さんの技術が特殊だったらしく、私は高校の時生えた髭が、輝喜は小学生になる頃に生えた。六年生になると私と同じほど濃くなってしまった。
 また宇宙人さんを頼ろうと思えば自責の念は軽くなるが、私は妻と出会い、輝喜を育てることで大きな幸福を得た。何事にも後ろ向きで孤独だった私が、愛する妻と息子のために仕事も猛烈に取り組み、職場にも生き甲斐とかけがえのない仲間を得た。
 安易に宇宙人さんに泣きつくようでは、この幸福を軽視しているようで気が引ける。

 しかし輝喜自身に罪はない。思い切って宇宙人さんに相談した。
 程なく息子へのイジメはなくなったが、輝喜の髭は依然として黒々としている。
 宇宙人さんは、学校の子たちに金属片を埋め込んだからもう大丈夫と言った。
 だがこれでは輝喜は大人になるまで悩まされるだろう。その都度宇宙人さんに頼めば、いずれ全人類に金属片を埋められかねない。宇宙人さんにとってそれは本意かもしれないが、一地球人としてそれは避けなければならない。

 やはり私たち家族の問題だ。永久脱毛も考えたが、輝喜が成長するにつれ髭が生えないことも悩みになるかもしれない。妻は輝喜本人に聞こうと言った。デリケートな問題なので輝喜には聞けずにいた。髭と一緒に私のことも否定されそうで怖かったというのも本音だ。だがやはり輝喜の気持ちが最優先だ。
 夕食の席で、輝喜に自分の髭をどう思うか聞いた。
「父さんにもらった髭は僕の誇りだよ。よくバカにされるけど、父さんみたいに、ううん、父さんに負けないようにがんばろうって思うんだ。」
 そう言って輝喜は笑った。涙が溢れてきて、照れくささもあり夜風をあびに外へ出た。
 見上げた夜空は澄んでいた。満天の星が私たち家族の未来を祝福しているように思える。星空に浮遊しているアダムスキー型円盤に、私は小さく手を振った。



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