第52期 #3
徒歩通勤。
片道1時間弱。
10月一杯までは、東京にも住居がある。
来月からの生活に向けて、練習。
一生、一人身で過ごす事がつもりだった。
結婚なんて、弱い人間がするものだ。
憧れる女性は皆、独身。
昨日も発作があった。
二年前から、体の調子が悪かったが、
症状が出たのは、去年から。
社会人になってから症状が無く、完治したと思っていたので、ショックだった。
10代の発病者は、親の遺伝が多いという。
母も経験している。
仕事をしている時が、一番気が紛れる。
彼が必要だと思った。
脳溢血で入院している彼のお母さんに挨拶に行った。
3ヶ月単位でたらい回しされ、遠方に入院していた。
彼に今日行かなきゃ、絶対後悔すると伝えた。
植物状態と聞いていたのに、笑って迎えてくれた。
思ったより元気そうだったので、ほっとした。
でも、あの言葉は、本当になってしまった。
あれから、数ヵ月後あっという間に亡くなってしまった。
8月の早朝、突然電話が鳴った。
常識を逸した時間だった。
横で眠っている彼を起こさないように、そっと電話を取った。
お姉さんだった。
私の声で、ちょっと驚いて、
それから自分を抑えている口調に変わった。
不幸な知らせだと直感した。
彼は、急いで洋服に着替えながら、
何度も、何かに問い、何かに怒っていた。
私は、その様子を見ながら、母の口癖を思い出す。
皆、明日をとも言えぬ命よ。
最初で最後にお会いしたあの日、偶然にも彼のお母さんの誕生日だった。
川沿いに、沢山の彼岸花が燃え滾るように咲いている。
皆、生命力に満ち溢れ、自然を賛美しているようだ。
それを過ぎると、私は橋を渡る。