第52期 #17
真っ赤なリンゴの降り注ぐ、モナリザ・ロード。
灰色のコンクリート壁に何枚、何十枚、何百枚と貼られたモナリザ。
リンゴを齧り、歩き出す。
白いドレスを着た女の子が泣いている。
頭の潰された黒いヘビを持って泣いている。
あたしは女の子の手を引いてモナリザ・ロードを歩いていく。
街には広告。広告、広告、広告、広告、広告。マケドニア社の広告。ネオンサインの広告。マケドニアネオンサイン。月々二円で五億曲ダウンロード可能。
一曲三分として時速二十曲。日速四百八十曲。月速一万五千曲。年速約十八万曲。
「お望みであれば」
アレキサンドリアがひざまづいて言う。
「お望みであれば、あなた方の時空をゆがめる、時空をゆがめて、楽しくする、美しくする、そのようなサービスも提供できますが」
クレオパトラが泣いている。ヘビを持って泣いている。
アレキサンドリアはひざまづいたまま動かない。
コンピュータに問いを入力する。十字架形のコンピュータ。作曲も作詞も作文も、昨今はコンピュータに演算させた方が早い。
「人は」
イエス。
「人は、滅ぶべきなのか」
イエス。
「人は、生きながらえるべきなのか」
イエス。
「人は、どこまで生きなければいけないのか」
イエス。
キリンが死んでいる。長い首を横たえて死んでいる。
爆弾で破壊された聖堂に、キリンの死体をなんとか運び込む。
聖堂に行き着くまで、色々なものを手渡されていた。鍵、本、パスワード、詩、朝日、夕日、虹。そんなもので両手が一杯になる。
突如視界が開ける。
あたし達はビルの屋上に行き着いた。
親しい友達や親、兄弟、親戚一同、ご近所一同、白いワンピースを着てあたし達に銃を向けている。
銃弾が一斉に撃たれる。蜂の巣になる。血煙が舞う。視界の彼方では青空が綺麗で。虹が綺麗で。モナリザが綺麗で。ネオンサインが綺麗で。クレオパトラが綺麗で。
落ちていく。ビルからあたしは落ちていく。
足首にヘビが絡まる。
逆さまに吊られるあたし。
ヘビは頭を潰されているくせに変に動いて、変にカラダに絡まって、変に刺激して、変に溢れさせて、変に縛り付けて。
逆さまの朝日。視界の全て綺麗で。イエス。イエス。イエス。イエス。コンピュータが答える。虹が綺麗で。モナリザが綺麗で。ネオンサインが綺麗で。クレオパトラが綺麗で。全て綺麗で。コンピュータミュージック。全ての音が綺麗で。全てがプログレッシブで。