第51期 #9

ありがとう ドンフアン

「有名な男がいいわ。」
「なんで?」
「有名になるぐらいの人なら隠された才能を予感するもの。やっぱり会ってみたいわ。」
アップスケールなカフェで(カフェの最後の方を高く、イントネーションをつける。それがフレンチ。)
どこもかしこも綺麗にアレンジした女性が二人、談笑している。
「金持ちで」
「ハンサムで」
うれしそうだ。ブランド名の袋がたくさん彼女らの周りを守っているかのようだ。ウエイターも笑みを看板のようにさげながら二人の周りをうろうろしていた。


近くのブースでミルクをたっぷり入れたコーヒーをすするアジア人の男がいた。
太郎はコーヒーを飲み終え軽く立ち上がるとすこぶる真面目な顔で二人の席に歩いていった。

「ハーイ。」
二人の女性を交互に見た後、太郎は微かな笑みを浮かべながら言った。
「ハーイ。」
ラテン系国籍だろう黒髪の女性が真っ白にそろった歯を笑顔に応じた。もう一人のややおとなしそうな金髪の女性は少し困惑した笑みを浮かべ何も言わなかった。
「二人ともあまりに寂しそうでね。少し注目をしてあげようとやってきたのさ。」
「そうでもないわよ。」
金髪の女性が笑うと、黒髪の女性が楽しそうに言った。
「貴方は話さないけど恥ずかしいだけなのかい、それとも友達に僕を譲ろうとしているの?」
太郎は金髪の女性を見て言った。
「まあ、自分を買いかぶりすぎよ。」
金髪の女性は笑いながら言った。
「お二人の名前は?」
「マルクエッタ」
「サラ」
「マルクなんだって?」
「私の名前をからかわないでよ。」
「そんなつもりはないさ。」
「マルクエッタよ。貴方は?」
「見も知らぬ他人に自分の名前を教えるのもなあ。君は危険人物かもしれないし。」
「信じられないわ。こんな人ってありえる?」
マルクエッタが首を振りながら笑った。
「あなたが先に聞いたのよ。」
サラも言った。
「そんなに知りたいなら仕方ないか。僕は太郎。」
「タロー?中国人?」
サラが聞いた。
「日本人よね。イチロー。」
マルクエッタが頷く。
「えーと。もういかなきゃ。」
太郎はいきなり言った。

店の外で男が待っていた。
「どうだった。」
「しだいに慣れてると思うよ。今回は結構いけそうに感じたよ。」
「日本人の男が外国でもてないのは悲しい。サッカー日本代表が決定力不足なのと一緒だ。」
「積極性の不足と欧米コンプレックスね。はいはい。」
「ちびなタローでも世界でもてる。それが愛の真理だ。自信を持て。」
「ありがとう。ドンフアン。」


Copyright © 2006 Don Juan / 編集: 短編