第51期 #10

それでも生きていた

 熱い。
 無秩序な自然。捉え方によっては汚いとも思える緑。
 そして、それらに灰色が足されていた。
 その灰色は――でこぼこで、それでもどうも真っ直ぐ、らしい。
 これは、自然の物じゃない。確か名前は、「コンクリート」。
 それの隙間からは草が乱れて生えていた。
 自然じゃないものと、自然が入り混じっているこの景色。
 汚いとしか、思えない。
 そして私は、黒い点。
 確か名前は、「蟻」。
 
 私は食べ物を探していた。仲間の為と、自分の為。
 どこまでも、どこまでも、歩き続ける。
 毎日いつでも、探していた。
 熱い。
 食べ物が見つかるまでは、帰れない――。
 私は「コンクリート」に乗った。
 これは、何の為にあるのかは知らない。
 だって何も食べ物が無いじゃないか?
 ただ一つ分るのは、沢山の「名付け親」が通ること。
 又は、名付け親の造ったものが通ること。
 ……また、名付け親が来た。
 早く、食べ物を見つけよう。
 
 名付け親は大きい。
 そして、数が多い。
 名付け親の足には登ったことがある。
 それは、どうも不思議だった。
 私が見る限りは、名付け親の足は自然の物ではないように見えるのだ。
 名付け親は、本当に自然から生まれたのだろうか……?
 それとも、名付け親も他の名付け親に作られたのだろうか……?
 恐ろしい生物だと、誰もが思っていた。
 
 早く、食べ物を見つけよう。
 早くしないと、仲間に悪い。
 早く、早く、早く、そう思っているうちに名付け親は私のそばに来た。
 ――名付け親は、私のそばに来ていた。
 ぞっと、する。
 名付け親の足が、私の真上に来た。
 踏まれた。けれど、一度くらいなら、大丈夫。
 私は逃げようとした。とにかく体を素早く動かして、とにかくここから去ろうとした。
 ……「コンクリート」の上にいたのが間違いだった。のだと思う。
 また、踏まれた。二度目。
 また、踏まれた。三度目。
 そして、また――。
 ぐしゃり。
 
 熱い。



Copyright © 2006 金澤蘇悠 / 編集: 短編