第51期 #11
「ねえ、今ちょっと時間ある?」
少女二人連れに、同じくふたりの少年が声をかけた。
「ナニ?」
少女の一人が笑顔を向けた。これは脈がありそうだ。
「これからカラオケ行こうと思ってるんだけど、良かったら一緒にどう?」
少年の声音にやや力みが入る。
「ゴメンネ、アタシたち付き合ってるから」
笑顔をさらに増して、少女はもう一人の少女の腕を抱くように捕まえた。そして、じゃあね、と一言だけ投げて行ってしまった。少年は唖然として見送る他はなかった。
「ちょっと、そういう誤解を招く言い方はやめてよね」
「良いじゃん、本当のことだし」
私が厳しい顔をして見せても、まるで堪えていない笑顔しか返ってこない。
私の横を歩いているチュニックワンピースにカットソーパンツ姿のコイツの名前は、青野海人。性別は男。そして実際に私と付き合っている仲、と言って良い。
「ね、クレープ食べようよ」
海、と呼ばれることを好むコイツは、服装だけでなく、嗜好も趣味も友達関係も女の子のそれでできていて、いつの間にか私の近くにいた。
「イチゴふたつください」
自分でふたつ買うようなところはエスコートしている男なんだけど、意識してやっているものなのだろうか。友達の一人だった海から、私のこと好き、とやっぱり笑顔で言われて、良いな、と言われただけだっただろうか、私の心は大きく揺れた。
「はい。あっちで食べよ」
それから程なく海の方が付き合ってる宣言をしちゃって今に至っているんだけど、私の心は今も揺れが止まっていない。
「加奈子が告ったって話、聞いた?」
「聞いた聞いた。もっと早くに告ってれば良かったのにね」
ひとつ揺るがないことは、海といることが私には楽しいということである。楽しいし、海のこと良いなって思うんだけど、どう良いのかというのが問題なのである。
「でさ、あのときの加奈子相当キメてたみたいだけど、そんなことしちゃって大丈夫かなぁ?」
今も女の子な恋話をしている、憎らしくなるほどスタイルの良い海。けれどさっきみたいなエスコートなど、私のことを気遣ってくれる海。
「後々持たなくならないと良いけど…。って、どうかしたの?」
返事をしない私の顔を、海が覗きこんだ。
「あ、ゴメン。でも告白って一番大事だし、精一杯になる気持ちってわかるな」
「それもそうだよね」
輝くような笑顔で笑う海。今が楽しいんだからそれで良いかと、今日も私は詮索を放棄したのだった。