第51期 #12

relief

玄関の扉を開けて一筋の光もない暗闇の中へ。住み慣れた部屋では、明かりなんて必要なかった。それでも足元がふらつきその勢いで肩に掛けていたバッグが床にたたきつけられた。バッグを廊下にほったらかしにしたまま、部屋に入り身に着けていたアクセサリー、服を次々に脱いでいった。一人でいる部屋では私を飾る窮屈なものなんてすべて必要ない。頭がフラフラしてベッドに倒れこんだ。主のいなかったふとんがひんやりと気持ちよかった。今日は少し飲み過ぎたのかもしれない。
 でも私にはまだしなくちゃならないことがあった。眠ろうとしている体をゆっくりと起こして置き去りにしてきたバッグの元へ向かった。暗闇の中手探りでバッグから携帯を取り出した。なかを確かめてため息をつくのはいつものことだった。そのままベッドに八つ当たりするように飛び込んだ。23時43分。もうバイトは終わっているだろう。私はリダイヤルボタンを押した。
「どうした?」
いつもと同じ台詞が聞こえてくる。
「今何してた?」
いつもの通りの私の第一声。あんたが言葉を変えない限り私も変えたりしない。
「明日朝からバイトだからもぉ寝るとこ。ズゥは?」
「今飲み終わって帰ってきたとこ。」
反応が返ってこない。だからって私から話し出すこともしない。
「男いたの?」
しばらくして帰ってきた言葉は私が望んでいたものだった。
「いたよ。バイト仲間の飲みだもん。」
「男いる飲みの時は教えてって言ったじゃん。」
少し苛立った声になっていた。でも私は何も言わない。もぉ私の目的は達成されたから。しばらく沈黙が続く。心地がいい。
「聞いてるの?」
今度は困惑した声色。
「ごめんね、今度は教える。明日早いんでしょ?もぉ寝て。おやすみ。」
「・・・うん。てか、おれ別に怒ったわけじゃないよ。ただ心配だったから。あんま気にしないで。」
「わかってる。おやすみ。」
「・・・おやすみ。」
プー、プー、プーと機械音が耳に響く。今日も何かまだ言いたそうな、おやすみだった。それはとても私を満足させる。安心させる。彼の頭の中を私でいっぱいにできるから。徐々に心地よい眠気が私に忍び寄ってきた。もう瞼があげられなくなってきた。私の夢を見ることを願って私も彼の夢を見る。これが私の愛の儀式。



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