第51期 #13

嫌な人々

気づけば世界中は「嫌な人」で溢れかえっていた。
 
「嫌な世の中になった」
最近はできるだけ言わないよう努めていたセリフがつい出てしまった。
 里中 智 27歳
彼はよく見る平凡な『嫌な』サラリーマン、彼は帰宅途中にスーパーに立ち寄った。
彼は店に入るなり揚げ物コーナーへと早歩きで直進していった。途中にいた、タイムサービスを狙って来た買い物中の節約好きの『嫌な』おばちゃんたちに,わざとぶつかるように歩いていった。
 揚げ物コーナーの前に行くと、『嫌な』買い物おばちゃん2号と目があった。
おばちゃんは彼を一瞥するなり、揚げ物コーナーの棚に残っていた白身魚フライ2個とコロッケ1個と、豚カツ2個全てを自分のパックにいれた。
 智は揚げ物コーナーの棚の前に呆然と立ちつくし、舌打ちをした。
数秒後カップ麺を買って店を出た。  
「ありがとうございました」と言う『嫌な』店員は一人もいなかった。

家に帰る途中、狭い歩道の向こうから自転車に乗った『嫌な』若者がやってきた。
こちらに気づいているはずだが、ベルも鳴らさずに突っ込んでくる。
仕方ないので、車道に出る。すれ違う際に睨みつけるが、気づかない。

自宅のマンションの前についた。玄関の前には犬の糞があり、すぐそこの曲がり角を犬の散歩をしている『嫌な』老人が曲がっていった。
手には空のビニール袋を持っていた。

 部屋に戻った彼は、スーパーで買ったカップ麺をすする。
賞味期限は切れているが、最近では気にしていられなかった。
 食べた後は特にする事もないので、風呂に入ってさっさと寝る事にした。
布団をかぶり、しばらく考え事をしていた。
なぜこうも皆、嫌な奴になってしまったのだろうか。
きっと心だけが満たされないこの世の中が続くかぎり、人々はますます「嫌な人」になり、増えていくだろう。
「神様も嫌な人だ…」
そう呟いて智は眠りについた。

その晩、智はいい夢を見た。
地下鉄では若者が、優先席でもないのに老人に席を譲り。
道を行く学生は、落ちているゴミを拾い。
出会う人々全てが、礼儀正しく「こんにちは」と挨拶を交わしてゆく。
みな親切な人ばかりな夢だった。
 
 次の日。
智は郵便受けに入っているピンクちらしと、不幸の手紙を回収する。
昨晩見た夢を思い出すと、かるく胸が締めつけられる思いだった。
「俺だけでも……」
そう呟く。

性に合わないな。そう思いながらも彼は部屋から持ってきたビニール袋で犬の糞をつかんだ。 



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