第51期 #26
その朝私はいつも通り家を出たけど、何だか学校へ行きたくなくて、同級生から隠れるようにして、いつもの角を逆に曲がってみた。とてもぼんやりいい気持ちで歩いていると、四階建ての団地が五棟並んでいる所に出た。朝なのに、夕暮れみたいな所。足許にハンカチが一枚落ちてた。洗濯物が風で飛んだんだろうけど、拾って見るとその青いハンカチはひどく汚れてた。するとどこからか、どろぼう、と叫ぶ声がした。見ると、小さな女の子が建物の陰から顔だけ出して私を睨んでた。目が細くて、色黒で、薄気味悪い子。その子は、どろぼう、どろぼう、と言いながら、建物の向こうへ行った。私は、ちがうのよ、ってその後を追った。女の子は人気のない公園のジャングルジムに登って、どろぼう、どろぼう、と私を指差して叫んでた。私も、ちがうわ、と言い返した。女の子は脚をばたつかせながら喚いてた。私はその子の足首を掴んで、ぐいっと引っ張った。すると女の子はバランスを崩して、ひっ、と小さく息を吸ってジャングルジムのてっぺんから落ちた。細い目が見開かれて、首はおかしな方向へ曲がってた。私は、女の子の乱れたスカートの裾を直して、青いハンカチを顔に被せてあげた。
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