第51期 #23

ポリポリ

 ある日、野菜が大量に送りつけられてきました。あきらかに通常より大きなダンボール6箱にわたって、色とりどりの野菜がまる半年分は梱包されています。差出人は不明でしたが、一枚のメモらしき紙が入っていました。
「草木と一体になれ。」

 気がつくと毎日野菜を食べている私がいました。3ヶ月も経つと、朝、昼、晩、ひとり野菜料理をむさぼるライフスタイルを獲得していました。不器用な私でしたが、おかずレシピを見ながら毎日いろいろな野菜料理に挑戦していました。そんなときに出会ったのが、びっくりするくらい火のとおっていないニンジンを食べるうさぎだったのです。

「どうしてあなたは、びっくりするくらい火のとおっていないニンジンを食べることができるんですか? 味とかするんですか?」
 私はうさぎに問いかけました。
「なんだよ。うっせーなポリポリ。味は、しねーよ。バカか。味したらこえーよ。普通にこえーよ。ニンジン味したらこえーだろ。バカか。」
 うさぎはさも当たり前のことのように生のニンジンをポリポリやっています。野菜の調理法に四苦八苦していた私には、その感覚が理解できないのでした。
「生ですか?」
「生だよ。音でわかれよ。音で生かどうかさ、わかれよ。バカか。新鮮さだけで胃に持っていってんだよ俺はよ。バカか。」
「炒めたりとかはしないんですか?」
「むしろ炒めねー方がうめーよ。」
 むしろ炒めなねー方がうめーよ…
 私は、うさぎのポリポリさ加減のなかに、なにかを感じました。
「あなたは、週にどれくらいポリポリするんですか?」
「週にどれくらいとかの考え方でやってねーよ、こっちはよ。明日もポリポリしていくだろうし、これからもポリポリやっていくよ。死んでしまうからよ。」
 だよな――。私は、うさぎのポリポリさ加減のなかに、宇宙を感じました。



Copyright © 2006 トイレ方向へ消えるハンニャ / 編集: 短編