第51期 #17
煙草部屋では、うだつの上がらない上司が、女の話をしている。
窓の外は、雨。
ここの所、ずっとだ。
奴は郊外に一戸建ての家を購入し、3人の子供と妻と住んでいる。
電車で、片道2時間かかる。
その間、車内で女を物色し、品定めしている。
それぐらいしか、楽しみが無い。
他の連中も一緒だ。
馬、パチンコ、マージャン、野球、競輪、ボート。
畠山 洋子の話題は、誰もが口を閉ざし、押し黙っている。
それがルール。
畠山 洋子が入社した頃、
男性社員からは、好奇と欲望、女性社員は、羨望と嫉妬が注がれた。
ここ数年、新入社員の採用が無い。
しかも、若い女。
それだけで、十分な魅力。
翌日から、女子社員のいじめが始まった。
簡単な仕事しか与えず、三時のお茶の準備も五分前だと早いと言われ、丁度だと遅いとお説教が始まる。
静かなオフィス内で、お局の「畠山 洋子」の物真似が響きわたる。
男性社員も関わらないようにした。
巻き込まれるのは、面倒だ。
存在しない者として扱われ、彼女自身も全てを承諾しているようだった。
外の雨は、止む気配が無い。
窓につく水滴を眺める。
眩暈を覚える程の無数さ。
プロジェクトを祝した社内の打ち上げ会があった。
お局の希望で、屋形船で行われた。
下っ端達は、芸をさせられ、飲まされる。
コールと共に、ビールグラスに、並々と日本酒を注がれ飲み干す。
全裸になり、舟もりにあったホタテの貝殻で局部を隠し、踊る者もいる。
楽しさを演出しなくてはいけない。
一人冷静に眺めている畠山 洋子をしゃくに思ったらしく、白羽の矢がたった。
能面のような顔で、畠山 洋子は返事をし、すっと立ち上がった。
ゆっくりと、アンサンブルのボタンを外し、脱ぐ。
次は、ストッキング。
何が始まるのか、一同釘付けになっていた。
ワンピースのジッパーを下ろした時は、皆唖然とした。
淡々と脱いでゆく。
計算され尽くした踊りのように、なまめかしい。
男性からの興奮と熱気、女性からの驚きと軽蔑の視線を浴びながら。
最後には、スリップ一枚になった。
ショーツもブラジャーもダンスの途中で、器用に脱いでいった。
それから、ゆっくりと窓を開け、気持ち良さそうに、海に身を投げた。
畠山 洋子は、それきり姿を消した。
警察と消防隊がやってきた。
数時間経っても見つからず、遺体も打ち上げられなかった。
誰もの心に深く刻みつけられた。
最後の最後まで畠山 洋子のショーは、完璧だったのだ。
こんな雨の日、僕は思い出す。