第50期 #8

鬼灯

ホオズキの、オレンジ色のちょうちんのようなガクを破ると、
中には朱色の宝石のような、丸い実が入っている。
ぷにぷにしていて、やさしい手触り。
「きれい。やわらかいんだね。」
「うん、熟してるから。
……懐かしいなぁ。これでお婆ちゃんが教えてくれた遊びができる。」
「ホオズキで?」
「そう。ホオズキで笛を作る。姉ちゃんも、やる?」
高校生になっても、相変わらずいい顔をして笑う隣の家の子。
昔はよく私の後ろを付いてきて、
まるで本当の姉弟のようだって、よく周りの人に言われたっけ。

ホオズキの中身の種や果肉を、
楊枝などで皮を破らないように出して、きれいに洗う。
ここであまりの難しさに挫けるが、負けてはいけない。
次に中身を上手に取り去ることができたら、赤い皮を口に含み、
上手に空気を入れて、ふくらませたホオズキを舌で押す。
空気が抜けて音が出るのを楽しむ。

変な味。
気の抜けたような、素朴な音。
音を鳴らすのはもっぱら弟で。
私のホオズキは、膨らました途端、
すぐに皮が破けてぺちゃぺちゃとした音しか出なくなった。
秋の始まりの夜。
虫の歌が聞こえる、満月の下。
縁側は、二人並んで座っても、少し肌寒い。

「姉ちゃん、ホントに結婚して町のほうに引っ越すのか。」
となりで音を出す弟が、唐突にきりだした。

「うん。あの人のお父さんが立てた一軒家があるから。結婚したらそっちに行く予定。
あと、ここ、子どもいないじゃない。幼稚園も保育所もないし。
私も仕事あるからね、友達いなくてひとりぼっちだったら、この子、かわいそうでしょ?」
そっと、お腹の子を撫でた。
できれば男の子がいいな、なんて思う。
「へぇ。やっぱり子ども、できてたんだ。」
「うん、…あれ?ごめん、言ってなかったっけ。」
「言ってない。姉ちゃん細いからわかんなかった。」
破けたホウズキを口から出して、
もう一つ作っておいた方を口に含んで、膨らました。

「おれ、姉ちゃんのこと好きだったのに。」

酷く震えてかすれた声。
あんまり驚いて、閉口する。
その瞬間に、中のホウズキの空気が抜けて、音が出た。

あ、
こうやって上手に音を出すんだね。



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