第50期 #6

夕陽を見てる

「沈んだ太陽はまた昇る。」
背中越しにそう呟いたマダムの優しさに、俺は涙が止まらなかった。

15年前、当時付き合っていた彼女と食事をした帰り、薄汚れた男達3名に突然囲まれた。

「おい、いい女連れてんじゃねーの?おまえよぉ。おい、女。俺と飲み行こうぜ」

そう言うと一番歯の抜けた男が彼女の腕を掴み連れて行こうとした。彼女は「やめてください」と言ったが、一番歯の抜けた男は力づくで彼女を引っ張っていこうとした。俺は「やめろ!」とその男を突き放し、彼女の前に立った。

「なんだよ、この野郎。おめえはおとなしくしてろや!!」

ヒョウ柄のシャツの男が手に持ったペットボトルで俺に襲いかかってきた。俺はダッキングでそのペットボトルを避け、カウンターで相手の顎めがけて左フックをおみまいした。上半身の回転をフルに利用した左フックでヒョウ柄の男は膝から崩れ落ちた。

「貴様、我ら安達組の暗黒三連星にこんなことをしてただで済むと思うなよ。」

だぼだぼのジャージの男はそう言うとサバイバルナイフを抜き、俺に突進してきた。大学時代に全日本学生ボクシングモスキート級チャンピオン(防衛無し)だった俺は男の突進をまた同じ様にダッキングでかわしてボディにカウンターを入れてやった。すると、その拍子にナイフが男自身の体に刺さり倒れ込んでしまった。

その後、病院に搬送されたジャージの男は死亡した。ヒョウ柄のシャツの男は顎が粉砕し全治半年、一番歯の無い男は転んだ拍子に歯を折る重症だった。

正当防衛だった。しかし、死者が出たこと。そして、彼女が安達組に脅され「私は嫌がっていません」と証言したことにより俺の過剰防衛と司法は判断した。

悔しかった。大切な人を守ったのにこんな結果になるなんて。その後俺は15年間刑務所の中に入り彼女を恨みつつ大型免許を取った。そして、今度は本当に信頼の置ける恋人ができた。

出所後、当時食事に行った店を訪れた。15年も経つと世間は大きく変わる。完全に浦島太郎になった俺だが、この店はあの時と何も変わっていなかった。それは、当時の記憶を鮮明に思い出させもしたが、違う世界に来た俺の寂しさを癒しもした。

その店の女主人は皆から「マダム」と呼ばれている。俺は15年ぶりだがマダムに「いつもの」と頼んでみた。すると、あの時毎週食べていた大盛り牛丼が出された。涙でしょっぱくなった牛丼を頬張り、もう一度あの時からスタートしようと決意した。


Copyright © 2006 水島陸 / 編集: 短編