第50期 #28
螺旋階段をくるくると昇りビルの屋上へ。
そこには古びたピアノが置いてある。初老の男がその前に置いてある椅子に座っている。こちらを見て微笑む。
微笑。
ピアノは大きなスタインウェイ、コンサートグランドD。その他にも幾つかキーボードが並んでいる。ウーリッツァー。ローズ。ハモンドオルガン。
初老の男は微笑む。
ピアノを屋上から突き落とす。
がたん、がしゃん、がごん、どごん。街のネオンライトが目を刺し貫く。がたん、がしゃん、がごん、どごん、がん、ががん、がどがん。
ピアノが落ちていく。
初老の男、微笑む。ウーリッツァー、ローズ、ハモンドオルガン、様々なキーボードに囲まれて。
がん、ががん、がごん、ごん。
そして信じられないほど、良いメロディ。
雨が降り始めている。
雑貨屋で七色の傘を買う。開くと七色のぼんやりとした光に視界を覆われた。
ぬかるに足をとられながら、丘を登る。
丘のてっぺんの灰色の鎖には、アルミナ皇女が吊るされている。
指にはタングステンロープを巻きつけられていて。ぎしぎしと強く巻きつけられていて。指には血が滲んでいて。美しい金色の巻き毛が雨に濡れていて。
丘を取り囲むテレジア戦車。
テレジア戦車は、唸りをあげて弾を発射する。
アルミナ皇女へ、唸りをあげて弾を発射する。
ネオンサイン。
ビルから飛び降りる少女。
花園。
目を瞑っても瞼を通して花々の色彩が目を刺し貫く。
花園。
少女はぼんやりと目を開ける。
オレルアンの喫茶店。テレビからはつまらない野球中継。煮詰まったまずいコーヒーを一口すする。
少女はアルビオンからイギリスへ。
アルミナ皇女は全ての弾を避けてしまう。
ひょいひょいと器用に足をあげて、全ての弾を避けてしまう。白いかぼちゃぱんつををちらちらと見せながら全ての弾を避けてしまう。
少女が泣いている。スカートをたくし上げて。
つまらない野球中継。
黒いパンツを見せびらかすようにして少女は泣く。
スパイラル高速道路。
二人並んで立つ。
くるくると回るスパイラル高速道路。
アップライトピアノ。おもちゃの戦車。書きかけの裸婦像。
そしてメロディ。あなたに聞かせることが出来ないのは本当に悔しい。そのようなくらいに、本当に信じられないほど良いメロディ。
とにかく私たちは歩き続ける。スパイラル高速道路。私達は歩き続ける。
赤いフェラーリが私たちを追い越していく。