第50期 #19

 何かしらの陰謀を達成せんがために結成された謎の組織に拉致され、数多の改造実験を施された大学生・藤堂勇人青年! 彼は常態こそ普通の人間だが、外気温が摂氏6度を下回るとたちまちオケラの化物に変身し、なおかつ冬眠の必要に迫られるという、世にもおぞましき「冬虫夏人」なのである!

 一方、稀代の呪術師ミラレパの後継者、ミラウタ師に食虫植物の呪いをかけられた心優しき保育士・石澤ハルカ! 彼女の子宮はウツボカズラ様の機能を備え、羽虫・毒虫・甲虫・地虫……あらゆる蟲を誘引する蜜を分泌しては桃色の魔孔に落ちこんだ獲物を消化吸収するという、語るも恐しき「食虫人間」と成り果ててしまった!

 そんな二人が出遭った! どこで? ミクシィの「現実に怪人がいたらどうする?」コミュで! ああ、神はなぜSNSをこの世に創り給うたのか。互いの怪人性を秘匿しながら恋に落ちた二人。捕食する側とされる側の恋。あまりに残酷である。この物語の残酷性を多少なりとも希釈せんがため、ここから先は映画『シェルブールの雨傘』の如き暢気なミュージカル仕立てでお送りしよう。


〜秋〜
ラララ女心はヤマトタマムシ
愛しあってる筈の僕たち
なのに全てを許してくれないのは何故?

ルルル真実を知られるのが怖い私
そうよ私はエダナナフシ
あなたは木を見て私を見ない

ラララ僕が欲しいのは君の全部
もっと知りたいよ君の事
日が暮れても帰らないで僕の赤蜻蛉

ルルル駄目なのやっぱり怖いわ
ミヤマのハサミが胸を締めつける
さよならするのは愛してるからよ


〜冬〜
ルルル忘れられなかったあなたの事
幾千も浮かぶあなたの笑顔
バッタの複眼で見つめているようね

ジジジ電話が鳴っているけど
冬は眠くて動けない それに
オケラの手じゃ携帯を取れないし
君を抱きしめることさえも

ルルルなんで電話に出てくれないの
あなたに見せる覚悟が出来たのに
羽化するアゲハみたいに無防備な私を


〜早春〜
ギフチョウは春の到来を告げるというけど
僕は別れを告げに来たよ 春の昼下がり

どうしてどうしてそんな事……

それは 僕が オケラ だから

それは別れる理由にならないわ
お金がなくてもあなたとなら平気
それにね私 食費が全然かからないのよ

ラララ僕がオケラでもいいのかい

ルルル愛ってそういうものよ きっとね


季節外れの雪がちらつくその夜に 二人はとうとう一つになった
思い違いをそのままに 二人はとうとう一つになった
オオカマキリの雌雄のように 二人は



Copyright © 2006 ヒモロギ / 編集: 短編