第50期 #18
僕はずっと考えていた。この裁判自体意味を持つのだろうか? 人が人を裁く現場はこんなものなのか? 最高裁判所の法廷は何処かひんやりしていて冷ややかだったが、不思議と落ち着く空間だった。
昨今、世間を騒がせた連続放火事件の被疑者として僕は連行され、やがて被告人に変った。
僕は犯人を知っているが、それを主張したところで、また取り調べから始まり、この席に彼女が座ることになるだけだ。彼女には恐らく実刑が下り、懲役30年は免れないであろう。いや、多分彼女の年齢からして、刑務所の中で葬式が行われる確立の方が正解かもしれない。
僕の口頭弁論が始まった。僕に着いた弁護士は有能らしい。
『いいね。日下部さん』と言っている目が自信に満ち溢れている。それはそうだろう、容疑を晴らすだけなのだから簡単なことではないか。
裁判官が、
「あなたは日下部勝さんですか?」
「はい」
僕はこのやり取りにうんざりしていた。『見ればわかるだろ』
「あなたは今回の一連の連続放火事件の犯人として法廷に立たされています。それは理解できますね?」
「はい」『それを警察がでっち上げたんじゃないのか? もしあの裁判長が犯人だとしたら、法廷は、世間は、大騒ぎになるのか? それとも政治力を利用し代弁者を雇うのだろうか?』
「あのぉ。全て僕がやりました」
自分でも不思議なくらい冷静にはっきりと答えていた。法廷全体がザワツク。
「異議あり!」
有能な弁護士はアドリブに弱いらしい。
「弁護人」
「彼は混乱しています。そして事実には無いことを陳述しています。彼が冷静になるまで少しお時間を頂きたいのですが?」
今度は裁判官達が忙しい。
このやり取りを見ていた僕は、子供の頃のある遊びを思い浮かべていた。真理はもしかしたら何処にも存在しないのかもしれない。だから「六法全書」と言うルールブックが存在するのであろう。
まだゲームは始まったばかりだ。
さあ、僕の容疑を晴らしてもらおうか。