第50期 #17

オチ

揺るがない慢心は無いし、恒等的に成立する謙遜も無い。だからキャラ性だとかそんなもので形容される物語のキャラクタは現実には存在しない。
何が言いたいかって言うと、人生は小説のように終わることが無いってことだ。

俺を主人公にして世界は回っている。世界という言葉の定義が“自分を主観にした周辺の諸々”であれば、この慢心は確かに成り立っている。
それはともかく。どこにでもある繁華街にどこにでもある貸しビルが建っている。中のテナントの案内板は擦り切れて、錆び朽ちて、長い間使われていないオーラを出していた。
街の雑踏と景色の中に、ひっそりと立つこのビルは昔からあるようで、その実、地元住民である俺にも何の店をしているのか分からない所だった。
禁忌を犯してこそ物語が始まる。
俺は何故か、そのビルを探検してみることにした。

ガラスのドアを開けてビルの中へ侵入した。
入ってすぐに二階へ上がる階段が見えた。ここから見える範囲では、一階のフロアはロビーと窓口の着いた部屋(たぶん管理人室だ)が入り口側に有って、廊下が奥に伸びている。
少し移動して廊下を覗くと、右の壁に入口が二つあって、その中に床が剥げてボロボロの部屋が見えた。つまり階段がある場所の奥に部屋が一つあるのだ。廊下の奥は更に右へ折れており、見えなかった。その曲がり角へ向かおうと足を上げた瞬間
――ガタッ
と二階から音がした。誰か居るらしい。
……落ち着け。何故なら俺はクールだった。
文法がおかしいがたぶん文法がおかしいんだと思う。とにかくこのままじゃ不法侵入なので、逃げよう。
俺は踵を返して、ゆっくりと、ロビーへ戻った。しかし。出入り口のドアはまるで魔法でもかけられたようにビクとも動かない。
だが、こんなときのために非常口というものがあることを俺は知っていた。更に踵を返して、俺はさっきの廊下へ向かう。角を曲がると、予想通り、そこには非常口のドアがあった。
ちょろいもんだぜ、と思ってノブを回すと鍵が掛かっていた。なのでサムターンを回して鍵を外そうとすると、バキンと音がしてサムが取れた。
やれやれだぜ。
意を決して、三階へ上がる。途中で二階の部屋から物音が聴こえた。
三階の非常口は既に開いていた。出ると、錆びた螺旋階段が地上へと続いて
「おい!」
声がした。全身が逆立った。震えながら。俺は飛び降りた。
落ちている途中、子供の頃に滑り台から飛び降りたときのことを思い出した。
グ■ャ!



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