第50期 #14

Hack show on! Gefoge for...

 風邪の奴と来たらいきなり来るから分からん。こちとら毎日ゲンキッキ、五体満足じゃーい! と謳ってたのにクリーンヒット食らうと即ダウンしちゃうガラスのアゴ。慣れない悪寒に気づいて慌てて薬を飲み込んだものの既に時遅し、俺はそのまま意識を失っていた。目を覚ましても、布団の上でうつ伏せたまま小指一つ動かせない。死ね。何の権利があってこのバイ菌どもは俺の自由を奪いさらす。こうなりゃもう胃の中のパブロンに希望を託してただ待つしかない。暫く経って、ようやく少し身を起こして携帯を手にできるほどには回復した。ポチ・ポチ・ポチ、智子に空メール。そこで第2ターン終了。俺は電源を切られる。
 再び目覚めるとおデコに異物感。渾身の力で首を捻ると、ずるりと額を何かが滑る。「ドチャ」。やけに湿り気のある音が俺の体内を通って地球七周半する。気持ちいい。
「起きた?」
 智子の声。
「じっとしてなさい」
 またおデコのあたりで「ドチャ」と音がして額が重くなる。ヒンヤリして心地よい。ああ、これはアイス的な何かだ。風邪から俺を助ける心強い仲間だ。そしてそれを差し向けたのは治療戦隊ナオスンジャーの指令・智子。
 智子の言葉に応えるべく頷こうとして必死にアゴを引くとまた「ドチャ」。アイス的な何かが今度は顔面の中央に着地して俺の呼吸を妨げる。
「だからじっとしてなっての」
 言われたその場で命令を無視している俺はなんてダメ人間なんだろう。やることがみんな裏目に出てる、運命的なものさえ感じるダメ加減。情けなくって笑っちゃうよもう。笑うパワーないけど。
「あんたね、冷凍庫の中に生ゴミ入れるのやめなよ」
 指令はダメ隊員に追い討ちをかける。
「ドア開けていきなりピンクの米出てきたら焦るって。氷なかったから使ったけど」
 エッ! すると今ボクの上にはソレが乗っているのですか。そういえば何やら生臭い香りが……しなくて俺の鼻はズルズルズンズルズン。
「今ちゃんとした氷作ってるから、それまで我慢しな。食べれるならおかゆでも作ってあげるけど……無理っぽいね。とりあえず今は寝な。居てあげるから」
 智子はそう言ってゴソゴソと布団の中をまさぐる。エッ! これはもしや……と思ったらそんなわけなくて智子は俺の右手を探り当てる。
 ギュッと俺の右手を握る智子の手はやはりアイス的な何かで、握られてるのが右手だろうが別の何かだろうが関係なく心地よかったのだった。



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