第50期 #11
中学生のころ、僕は人生の第一目標を「佐藤美香子とセックスすること」と定め、日々目標に向かって精進(主にイメージトレーニングと称した自慰行為だが)していた。
しかし、当時シャイだった僕は、目標達成どころか、ろくに彼女に話しかけることさえできずにいた。
そんな僕が、一度勇気を振り絞って、彼女にアタックしたことがある。
ある雨の日、彼女は不幸にも傘を盗まれてしまい、学校の玄関で立ち往生していた。
困っている彼女に、僕は言った。
「一緒の傘でよかったら、送ってあげるよ」
それからのことは緊張していたせいか、あまり詳しく覚えていない。記憶に残っている事といえば、隣を歩く彼女の髪からリンスのいいにおいがしたことと、ドキドキしてしまった僕が、帰ってから三回連続で「精進」した事だけである。(もちろんその後自己嫌悪に陥った。)
今思えば馬鹿な話だが、僕はあのころ真剣だった。そして、最高に輝いていた。
結局彼女とは、その後何も無かった。僕は彼女に思いを伝えることも無く、遠くの町へ転校してしまった。
それから7年後、僕は雨の中、ネオンでギラギラ光る建物を見上げていた。
──よりにもよって、ソープかよ。
彼女の家があった場所には、風俗店が立っていた。
自分の美しい初恋の思い出が汚されたような気がして、なんともいえない寂しい気持ちになった。
しかし、傘が雨を弾く音を聞いているうちに、自分がここに来た目的を思い出し、苦笑いを浮かべた。
──そういえば、元々、美しい思い出なんかじゃ無かったっけ。
僕は、しばらくその場で立ちつくし、これからどうするかを考えた。
彼女が居ないのでは、目的は諦めるしかないだろう。それならもう、持っていても仕方が無い。いっそ捨ててしまおう。そうだ、どうせ捨てるのならこの場所で……
僕はそう決意し、店内に入った。
プレイ内容は、あまり印象に残らなかった。相手の女の子の顔も、もう思い出せない。
ただ、あの雨の日に盗んだ美香子の傘を、店内の傘立てに置き去りにしてきたことだけは、はっきり覚えている。