第5期 #7

「別れよう」
 アタシ、今まで和気藹々とデートしてきて結局それがエンドのセリフなの?って言ったら、彼に、好きな娘できたんだ、って言われた。しし信じらんない!

 家に帰るなり即行、親友のトモ子に電話を掛けた。
「あああアタシ、捨てられたんだ!何も悪いことしてないのにアタシ!あいつが悪いのよ!あいつが!もう、もっと早く言ってってカンジ!アタシこのデートのために新しいコートでキメていったのに、結果『好きな娘できちゃった』の一言なんて馬鹿みたいじゃない!」
 ものすごい剣幕でがなると、トモ子も「そんなヤツ捨てちゃえ!コッチから!」と一緒になって怒鳴ってくれた。その言葉でちょっとすっとしたけど、2時あたりで「ごめん明日仕事」のガチャリ。消化不良。
(アタシ可哀想)
 そう思って携帯のメモリー番号にどんどん掛け捲って、ねえねえ聞いて聞いて。でもテキトーに相槌を打ってくれる人さえ、時間が経つとどんどん数少なくなり、電源を落としている人、出てくれない人が増えていく。その事態にもムカついて、つい最近飲み屋で知り合った女の子にも電話する。
「はい?」
 やったー出たー!と握りこぶしでアタシは一気に溜めていたパッションを爆発させた。「あのねあのねちょっと聞いて!」
 これこれこういうことでアタシ可哀想でしょう!?ねえ!アタシがこんだけ悲しんでいるんだから、もっとみんなそれに付き合ってくれてもいいじゃんって思うのよねー!
 そんな話を延々と続けて、遂に朝日が昇るまで。

 するとかなり胸のつかえが下りた気がしたから。
 じゃー、またねー、で終わろうとした。

「265回」彼女の声。

 え?と数瞬の空白の後アタシが声を出してから。
「あんたが『アタシ』って言った数。途中から数えたんだけど」
 冷静な声で言われてしまい。

 なんだか悲劇に没入していた自分や、それに伴うあまり知らない人へ熱を上げて語っていた行為や、そういうものが全て恥になってアタシに襲ってきてつまり。

「あああアタシ……」
 涙がじわじわ眦に浮かび、鼻水が零れ落ち。
「うん」
 先を促すその相槌があまりに優しかったので一気に崩れた。
「アタシのことが嫌いいいい、うわああああん」
「そっか」
 彼女の声はあくまで穏やかだった。「アタシも失恋したことあるけど、あんたほどじゃなかったわ」そうしてため息一つ零れ落ちる音。
 それをきっかけにアタシはまた、自己愛による恥でひどく崩れていった。



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