第49期 #7

私の宝もの

 独身女の私には妹があるきりです。それはそれは美しい子です、妹が十七になり私は心尽くしのお祝いの夕食を作りました私は三十四です、妹とは父親が違います。妹は生まれつき四肢が不自由なためにひがな蛇のように寝そべっております。いちいち小分けした煮魚やらご飯つぶやらを蓮華で口元まで運んでやると全身をくねらせてそれを口にくわえます、どうやらただ口だけを動かすというわけにいかぬようです。
 私は掃除婦として働いております、その家のご主人はとても立派な大学の博士の先生でご著書もたくさんおありになってテレビのなんとかの解説にお出になったこともあります。先生のお父さまは実業家でその会社の顧問としてお父さまに報いてらっしゃいます。
 先生は奥様と別居しておられまして一人暮らしで本棚と本が詰まりきった部屋に掃除のために入ることのできるのは私一人です先生は私の妹のことをよくお聞きになります、私はそのたびに妹の輝く黒髪やら豆腐のように白い肌やらそれらをお風呂場で洗ったりやら下の世話やらの話をしてしまいます。お仕事の邪魔にならぬようにと思いつつもただただ宝石のように美しい妹の話をし始めるときりがなくそんな私を先生はとても温かく話を話を聞いてくださり続けたのです。それが原因です。
 先生はとうとう私の妹に会いたいとおっしゃいました。私はそれが嫌だったのです。本当に嫌だったのです。けれども仕事を失えば妹を介護することもできなくなるのです。私は妹に聞きました、
「よろしいわよお姉さま」妹はいつも必ずそう言ってくれるのでした、妹は私を愛してくれているのでしたそれだから幸福でした。
 先生は輝く妹を見て深く心を打たれたご様子でした、直後に妻と別れて私と結婚したいとおっしゃいました、私の悪い予感が当たったのです。あの日先生の帰りが遅くなると知って、自宅に帰ることなく玄関前で待ち伏せていたのです。ナイフを持った私を見て、先生は驚かれた様子でした。
「私は君の妹の父親なのだよ。それを隠していたのは間違っていた。君と結婚したい、そして娘と共に三人で暮らしたい」
「えいやーー!」私は叫んでナイフをまっすぐ持って突撃して、先生の胸を一突きにしました。刑事さん、私はただただ妹を守るためやったのです、けれども翌日新聞に先生の記事が載って、あの先生は良くない先生だったと妹に言うと、
「違うわ、お姉さま」と妹が生まれて初めて言ったのです。



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